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メタ解析
機械弁留置の妊婦における抗凝固療法の母体/胎児転帰
Maternal and Fetal Outcomes of Anticoagulation in Pregnant Women with Mechanical Heart Valves
結論 機械弁留置の妊婦において,全妊娠期間を通してのビタミンK拮抗薬(VKA)投与は母体の有害転帰リスクがもっとも低く,全妊娠期間を通しての低分子量ヘパリン(LMWH)投与は胎児の有害転帰リスクがもっとも低かった。warfarin 1日用量≦5mgの女性と全妊娠期間LMWH投与の女性では,胎児のリスクは同等であった。
コメント  妊娠は若い女性に起こる。多くの妊娠,出産には合併症がない。妊婦が血栓イベントにより死亡,脳梗塞などを起こすと,本人,家族ともにその稀な病態を受け入れられない。一般に,妊娠期間中は血栓性が亢進する。先天性の血栓性素因なども,妊娠を契機に症状を呈することが多い。妊婦を血栓イベントから守るために,妊婦に対する抗血栓療法を理解することはきわめて重要である。
 子宮に着床した受精卵は,血管を作って成長する。初期胚の成長にも止血,血栓形成が複雑に関与している。構成論的な理解は不十分である。経験的に,ワルファリンなどのビタミンK阻害薬を妊娠6~9週に用いると,催奇形性,胎児死亡率が上昇するとされる。妊婦の救命はきわめて重要であるが,胎児の死亡,奇形を避けることも重要である。妊婦はすでに生命をもった人であり,胎児は今後生命を持つ可能性が高い。両者を天秤にかけた場合には,妊婦の救命を重視することが一般的なコンセンサスとされる。
 本研究は,機械弁の導入された妊婦を対象とした,きわめて貴重な研究である。選択的抗トロンビン薬,抗Xa薬などの経口薬は,非弁膜性心房細動など血栓イベントリスクの低い症例には考慮できても,機械弁,血栓性素因など血栓イベントリスクの高い症例には使用できない。これらの薬剤は低分子で,胎児にも移行するとなると催奇形性の心配もある。現実的な抗血栓薬の選択肢は,ワルファリンとヘパリンに限局される。
 文献的な検索ではあるが,妊娠の最初から終わりまでワルファリンを使用する場合の母体の死亡・弁機能不全・全身塞栓症の発症率は,5%程度であった。低分子量ヘパリンの使用により,母体のリスクは3倍になった。低分子量ヘパリンの使用を妊娠初期として後期にワルファリンに戻した場合も,母体のリスクは高かった。妊娠中断・胎児死亡・明らかな奇形の発症は,ワルファリン群において39.2%であった。低分子量ヘパリンの使用により,胎児のエンドポイントの発現率は半減した。未分画ヘパリンではワルファリンと差がなかった。
 血栓イベントリスクについて十分に説明しても,挙児を望む症例は実際に多い。現時点でわれわれが保有する手段では,妊婦に対しても,胎児に対しても十分に安全な抗血栓療法を保証できない。苦しい状況であっても,患者の希望に応じてベストを尽くさなければならないのが医師のつらいところである。機械弁など血栓イベントリスクの高い症例では,現時点で使用可能な抗血栓療法では母体も胎児も危険に曝露されざるを得ない。ランダム化比較試験,コホート研究ではないためエビデンスのレベルは高くないが,現実の症例に対し数値の説明を可能とする本論文の価値は高い。(後藤信哉

目的 機械弁は血栓形成作用を有するため,弁血栓症など有害転帰の発症抑制のためには,長期の抗凝固療法が必要となる。特に妊娠中では,血栓症ならびに機械弁不全のリスクが高い。VKAは禁忌がない場合の標準的抗凝固療法であるが,複数の研究で妊娠6~9週の催奇形性や胎児死亡率の上昇が示されている。機械弁留置の妊婦において異なる抗凝固療法を比較したランダム化試験はなく,広く引用されているシステマティックレビューはLMWHの登場前に発表された,旧世代の機械弁を用いたものである。また,その後のシステマティックレビューとメタ解析は,現在では壊滅的な弁不全と関連することが知られている固定用量LMWHの投与例が含まれていた。本メタ解析では,最新の機械弁が留置された現代の機械弁留置妊婦において,さまざまな抗凝固療法の母体および胎児の有害転帰リスクを検討した。母体の主要評価項目:母体死亡+人工弁不全+全身性血栓塞栓症の複合。胎児の主要評価項目:自然流産+胎児死亡+先天性障害の複合。
方法 MEDLINEにて,2016年6月5日までの文献を検索。
検索対象:VKA,LMWH,未分画ヘパリン(UFH)による抗凝固療法を行った機械弁留置妊婦の転帰を報告した研究。
除外:ボール弁留置女性の妊娠の割合>10%,UFHまたはLMWHの固定用量投与,妊娠報告数<5,正期産までの追跡なし/妊娠初期以降に開始した抗凝固療法,既発表の結果,英語以外の言語の文献,三尖弁/肺動脈弁の機械弁留置,機能不全弁の位置が識別不能。
本解析では,4種類の抗凝固療法を評価した;(1)全妊娠期間中のVKA(VKA),(2)全妊娠期間中の用量調整LMWH(LMWH),(3)妊娠初期の用量調整LMWH+以降のVKA(LMWH+VKA),(4)妊娠初期のUFH+以降のVKA(UFH+VKA)。さらに,低用量warfarin(1日用量≦5mg)で治療域INRを維持できている女性も特定した。
対象 18研究。800例。
ボール弁留置の割合は6研究で得られなかったが,1998年以前の妊娠を対象にしていたのは1研究(VKA群の6%に相当)のみであった。
主な結果 ・母体の複合転帰
VKA群の推定平均発症率は5.0%であった。その他の推定平均発症率およびVKAに対する平均リスク比(RAR)は以下の通り。
LMWH群:15.5%,RAR 3.1(95%CI 1.3-7.5)。
LMWH+VKA群:15.9%,PAR 3.2(95%CI 0.9-8.8)。
UFH+VKA群:15.8%,PAR 3.1(95%CI 1.5-7.4)。

・胎児の複合転帰
VKA群の推定平均発症率は39.2%であった。その他の推定平均発症率およびVKAに対するRARは以下の通り。
LMWH群:13.9%,PAR 0.4(95%CI 0.1-0.8)。
LMWH+VKA群:16.4%,PAR 0.4(95%CI 0.0-1.1)。
UFH+VKA群:33.6%,PAR 0.9(95%CI 0.4-1.5)。

・低用量warfarin投与女性との比較
胎児の複合転帰リスクについて,有意差は認められなかった。
LMWH群:RAR 0.9(95%CI 0.3-2.1)。
LMWH+VKA群:RAR 0.8(95%CI 0.2-2.3)。
UFH+VKA群:RAR 2.1(95%CI 1.1-4.4)。
文献: Steinberg ZL, et al. Maternal and Fetal Outcomes of Anticoagulation in Pregnant Women With Mechanical Heart Valves. J Am Coll Cardiol 2017; 69: 2681-91. pubmed
関連トライアル VTEの治療ストラテジー:8つの抗凝固療法の比較, 機械弁留置妊婦に対する抗凝固療法
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