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OXVASC age-specific risks of bleeding
結論 プロトンポンプ阻害薬(PPI)をルーチンに投与せずに,aspirinをベースとした二次予防のための抗血小板療法を行うと,75歳以上の患者における出血の長期リスクは若年患者(先行試験のデータを含む)にくらべ上昇かつ持続した。特に,障害が残る/致死的上部消化管出血のリスクが高かった。75歳以上における大出血の半数が上部消化管出血であることを考慮すると,出血を予防するためのPPIのルーチン的使用のNNTは小さく,将来的には併用投与を推奨すべきである。
コメント 虚血性血管疾患の二次予防に対する低用量アスピリン療法のリスク・ベネフィットを検証した臨床試験の対象者は,リアルワールドの対象者と比較して年齢層が低い。その結果,出血にともなう重度の障害や致命的リスクは,血栓症のそれに比して,severityが低いと考えられ,許容できるものとされてきた。本論文は,高齢者の低用量アスピリン投与に対する実際の出血リスクを調べることを目的とした。したがって,対象者の半数は75歳以上であり,10年の長期にわたって観察を行った。当然のことながら,より高齢の患者では出血性イベントが増加し,かつ重篤な,予後不良の出血事故が増加した。出血イベント/虚血イベントリスク比は,75歳未満0.20に比して,75歳あるいは85歳以上では0.32あるいは0.46と倍加した。上部消化管出血は大出血の半分を占めており,高齢者におけるリスク増加は同様である。本試験コホートのPPI使用率は2~30%と低かった。もしもPPIの併用が高齢者でルーチン化されていたら,予想される出血事故予防効果は無視できない,と考察している。わが国で実施された,同様の患者を対象とした観察試験(MAGIC)でも,PPI使用率は20%と低かった。ただし,本試験と比較して年齢層が低く,内視鏡所見を観察することを目的としたため,短期間の追跡に終わっている。(島田和幸

目的 虚血性血管イベント発症後は生涯にわたる抗血小板療法が推奨されるが,重篤な合併症として,上部消化管出血が知られている。これまでの試験は主に75歳未満の患者を対象としてきたが,aspirinの試験では致死率が低いため,上部消化管出血は一般的に長期障害の原因とは考えられていない。PPIの併用により上部消化管出血は70~90%低減するものの,その併用率は低く,現行のガイドラインでも推奨されていない。本研究では,75歳以上の患者が半数を占める集団を用いて,抗血小板療法による出血のリスク,時間経過,転帰を評価した。
デザイン 地域住民をベースとした前向きコホート研究。
セッティング 多施設(9施設),英国。
期間 登録期間は2002~2012年。追跡期間は10年間。
対象患者 3,166例(<75歳1,584例+≧75歳1,582例)。Oxford Vascular Study(OXVASC;92,728例)において,急性一過性脳虚血発作(TIA),脳梗塞,心筋梗塞の初回発症後,再度または継続して抗血小板療法をうけた患者。 
【除外基準】イベント発症後に経口抗凝固薬開始/継続例(発症前に経口抗凝固薬を服用しており,発症後抗血小板薬に切り替えた患者は除外せず),追跡期間中に永続的な抗凝固療法を開始,直近の出血・凝固障害・既知のアレルギー・その他既知の出血傾向のために抗血栓薬が投与されなかった患者など。
【患者背景】平均年齢*は<75歳群61.4歳,≧75歳群83.0歳。それぞれの男性*65%,43%。当該イベント*:脳梗塞32%,42%,TIA 30%,27%,非ST上昇型心筋梗塞21%,23%,ST上昇型心筋梗塞17%,8%。発症前の抗血小板療法*29%,52%。発症前の胃薬(PPIまたはヒスタミン2受容体拮抗薬を含む)投与*20%,28%。イベント発症後の抗血小板療法**:aspirinベース97%,95%,非aspirinベース3%,5%。*p<0.0001,**p=0.0137
治療法 TIAおよび脳梗塞患者には,長期的な抗血小板療法としてaspirin(75mg/日)+dipyridamole(200mg 1日2回)投与を推奨。急性イベント発症後48時間以内,またはそれ以降でも脳梗塞再発リスクが高い(ABCD2スコア≧4など)場合は,初期治療としてaspirin+clopidogrel(75mg/日)を30日間投与。
心筋梗塞患者には,6~12ヵ月間はaspirin+clopidogrel併用,その後はaspirin単独投与を標準治療とした。
PPIなどの胃薬のルーチン的併用投与は行わなかった。脳梗塞後,抗血小板療法を開始する際には脳撮像を実施した。
追跡完了率 死亡の追跡完了率は>99%。非致死的出血イベントの追跡完了率は99%。
結果

●評価項目
13,509患者・年において,初発出血イベントは405例(3.36%,消化管出血218例[上部消化管出血162例],頭蓋内出血45例,その他142例)発症した。大出血のうち,CURE出血基準大出血は187例(1.46%)。入院を要する出血は314例(78%)で,うち117例(37%)は管理コードが得られなかった。
非大出血リスクと年齢との関連はみられなかったが,大出血リスクは70歳を超えると急激に上昇した。ベースライン時に≧75歳であった患者の<75歳に対する10年後の年間リスクは,HR 3.10,95%CI 2.27-4.24(p<0.0001)であった。致死的出血は顕著で,HR 5.53,2.65-11.54(p<0.0001)であった。上部消化管大出血も同様に10年間累積リスクが高く(HR 4.13,2.60-6.57,p<0.0001),特に障害が残る/致死的出血で高かった(HR 10.26,4.37-24.13,p<0.0001,絶対リスク9.15/1000患者・年,95%CI 6.67-12.24)。
出血の年間リスクは経時的に減少傾向にあったが,≧75歳における大出血の年間リスクは<75歳にくらべ持続した(時間依存交互作用p=0.032)。
追跡期間中の虚血性血管イベント再発は,非致死性489例,致死性208例であった。大出血の虚血性イベント再発に対する5年間累積リスク比は,<75歳では0.20(95%CI 0.14-0.27)で,aspirinの先行試験と同程度であったが,75~84歳0.32(0.23-0.43),≧85歳0.46(0.32-0.67)と年齢にともない上昇した。抗血小板療法に起因すると推定される大出血リスクは,治療が予防したと推定される虚血性イベントのリスクに迫っていた。なお,再発した脳梗塞の重症度は年齢にともなう上昇はみられず,≧75歳における障害が残る/致死性脳梗塞は101/203例(47%)と半分以下であった。
5年間PPIのルーチン使用により,障害が残る/または致死的な上部消化管出血を1件予防するためのNNTは,<65歳では338であったが,≧85歳では25に減少した。

●有害事象

文献: Li L, et al.; Oxford Vascular Study. Age-specific risks, severity, time course, and outcome of bleeding on long-term antiplatelet treatment after vascular events: a population-based cohort study. Lancet 2017; 390: 490-9. pubmed
関連トライアル aspirinの一次および二次予防効果(ATT), aspirin連日投与による短期の癌発生,癌死,非血管死抑制効果, COGENT aspirin dose, 脳梗塞再発予防におけるaspirin早期投与の効果
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