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TRACER trade-off of MI vs. bleeding
結論 急性冠症候群(ACS)後に抗血小板療法をうけた患者において,心筋梗塞(MI)および出血はいずれも同程度の死亡に対する影響を有し,時間依存性も同様であった。BARC出血基準タイプ2および3aの出血はMIにくらべ,死亡への影響は小さかったが,3bの死亡リスクはMIと同等,3cでは高かった。
コメント  血栓イベントと出血イベントは密接に関連すると想定されている。しかし,両者の関連を精密に追跡した研究は少ない。急性冠症候群において,トロンビン受容体阻害薬vorapaxarの有効性,安全性を検証したTRACER試験は出血を上回るvorapaxarの抗血栓効果が認められず,中断された。製薬企業にとって,薬剤開発の投資の失敗を意味するが,アカデミアには開発に失敗した臨床研究であっても科学的価値はある。12,702例を対象として,急性冠症候群後30日以上経過後に718例が心筋梗塞を発症した。心筋梗塞再発例は非再発例に比較して死亡リスクが5倍もあった。症状を伴う出血イベント発症した症例も死亡リスクは高かった。心筋梗塞,出血イベント後の死亡リスク上昇は数ヶ月継続した。
 ランダム化比較試験は仮説検証試験である。本解析は心筋梗塞,出血イベントを起こした症例と起こさない症例の後ろ向き解析であり,いわゆるEBMの世界ではエビデンスレベルは低い。しかし,心筋梗塞,出血が近未来の死亡と関連するとの本研究が示した臨床的事実は臨床家には参考になる。循環器領域では今後新薬開発のための大規模試験は減る可能性が高いが,過去の試験結果,あるいは今後の前向き観察研究にて臨床に役立つエビデンスを発信することには価値があると考える。(後藤信哉

目的 抗血小板薬2剤併用療法は,ACS後の非致死性虚血イベントを低減するが,出血を同程度まで増加させる。しかし,治療後期における出血についてはまだあまり調査されていない。本研究では,ACS後の患者における有効性と安全性のトレードオフを検討するため,ACSから>30日経過後に発症したMIおよび出血の相対的な影響,ならびにその後の全死亡について検討した。
デザイン TRACER 試験は無作為割付,二重盲検試験。
セッティング TRACER 試験は多施設(818施設),37ヵ国。
期間
対象患者 12,702例。TRACER試験対象患者(虚血発作後24時間以内に来院したNSTE-ACS患者で,以下のうち1つ以上の所見を有する者:心筋トロポニン,CK-MBなどが正常値上限より上昇,新規の0.1mV以上のST低下,隣接する複数の誘導で0.1mV以上の一過性(30分未満)のST上昇。さらに,以下のうち1つ以上を有する者とした;55歳以上,MI/PCI/CABG既往,糖尿病,末梢動脈疾患)12,944例のうち,無作為割付の30日後までにMI再発のなかった症例。
【除外基準】-
【患者背景】-
治療法 TRACER試験はvorapaxar群(負荷用量40mg投与後,維持用量2.5mg/日投与)またはプラセボ群に無作為割付。
血行再建術の種類および時期,併用する抗血小板療法は,担当医の裁量とした。>90%の患者は当該入院中にclopidogrelを投与された。
追跡完了率
結果

●評価項目
ACSから>30日経過後のMI再発は718例(5.6%)で,その大部分(82.7%)は自然発症性であった。出血は,BARC出血基準タイプ1は878例(6.9%),タイプ2は712例(5.6%),タイプ3は346例(2.7%)。また,1.46%にはMI再発と出血の両方が発症した(MIが先0.72%,出血が先0.75%)。
追跡期間終了時,500例(3.9%)が死亡した。
MI再発は死亡リスクの5倍の上昇と関連していた(HR 5.36,95%CI 4.26-6.74,p<0.001)。BARC基準タイプ1の出血では関連がみられなかったが(HR 0.89,95%CI 0.61-1.31,p=0.551),タイプ2(HR 1.70,95%CI 1.23-2.36,p=0.001),タイプ3(HR 5.73,95%CI 4.32-7.59,p<0.001)では有意な影響が認められた。
MIはBARC出血タイプ2,3aと比較して,死亡リスク上昇と有意に関連していたが(タイプ2に対して:RR 3.15,95%CI 2.08-4.77,p<0.001,タイプ3aに対して:RR 2.23,95%CI 1.36-3.64,p=0.001),タイプ3bでは同程度(RR 1.37,95%CI 0.81-2.30,p=0.242),タイプ3cよりも有意に低かった(RR 0.22,95%CI 0.13-0.36,p<0.001)。
MIと出血の死亡との時間的関連は同程度であった。死亡リスクはイベント発症後早期に高く,その後急速に低下したものの,数ヵ月は有意な関連がみられた(有意差の消失は,MIは215日後,出血ではタイプ2は183日後,タイプ3aは538日後,タイプ3bは239日後,タイプ3cは113日後)。

●有害事象

文献: Valgimigli M, et al. Trade-off of myocardial infarction vs. bleeding types on mortality after acute coronary syndrome: lessons from the Thrombin Receptor Antagonist for Clinical Event Reduction in Acute Coronary Syndrome (TRACER) randomized trial. Eur Heart J 2017; 38: 804-10. pubmed
関連トライアル ATLAS ACS 2-TIMI 51 STEMI patients, CORONOR, DAPT myocardial infarction, EPICOR, GRAPE Registry, OPTIMIZE, PRODIGY impact of clinical presentation, SECURITY, TRACER undergoing CABG, TRANSLATE-ACS aspirin dose, TRITON-TIMI 38 discharge aspirin dose, 心筋梗塞患者におけるDAPT延長による心血管イベント二次予防, 非ST上昇型急性冠症候群に対する初期侵襲的治療および保存的治療の性差
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