抗血栓トライアルデータベース
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Tamim H et al Preoperative INR and postoperative major bleeding and mortality: A retrospective cohort study
結論 術前のINR値は,術後の大出血および死亡と独立して関連していた。
コメント 高齢社会では,心房細動などの心血管疾患と悪性腫瘍の合併例も多い。ワルファリンは抗凝固療法が必須の症例に使用されているため,術中,術後の出血リスクが増えると理解しても,抗血栓効果を重視して継続される症例がある。中止後のリバウンドもワルファリン継続の理由となる。血栓リスクの高い欧米では,血栓イベントリスクが増加する手術時にはワルファリン使用継続が常識とされており,血栓リスクの低い日本の常識とは若干異なる。本研究は後ろ向き研究ではあるが,米国外科医学会のデータベースに登録された63万例もの症例の解析であるため,インパクトがある。
本研究には欠点が多い。対象症例は2008年から2011年までにデータベースに登録された1,413,138例と膨大である。INRの計測のない776,907例を除外した636,231例を解析対象とした。INRを計測されている症例のすべてがワルファリンを服用しているか否かはわからない。INR 1.0以下の125,034例,1~1.49の479,155例,1.5~1.9の20,156例,2以上の11,886例の出血イベントと死亡イベントを比較した。
当然ながら,INRが1以上の症例の大出血の発現率は1以下の症例よりも低かった。しかし,INR 1以下の症例にはワルファリン非服用例もいるかもしれない。INR 1.5から1.9の症例群と2以上の症例群では,大出血リスクの増加に差異はなかった。術後30日の死亡率もINR 1.5-1.9の症例群と2以上の症例はINR 1以下の症例群よりも高いが,両者では差がなかった。この膨大なデータベースにもとづいて,本論文の結論としては,大出血を避けるためには至適INRは1.10,30日の死亡率を最小化するための至適INRは1.13と結論している。
本論文は巨大なデータベースを解析した結果である。データベースが大きくなると,臨床実態を反映する結果が出てくる。しかし,交絡因子の関与は否定できない。本論文の結果のうち,INRの増加と出血イベントリスクが相関しないのは,臨床家が出血リスクが少なく血栓リスクの高い症例を個別選択して治療介入しているためであろう。「データベースにもとづいて至適INRは?」などと結論するより,理論的に起こるべきINR依存性の出血リスクの増加を来させなかった「臨床医の経験による調節」の存在を示唆した論文として評価している。(後藤信哉

目的 手術を施行するにあたっては,INR 1.5が安全に施行可能なカットオフ値とされているが,これはおおまかな予測値であり,至適値についての試験は行われていない。本研究は,手術をうける患者においてINRと術後の大出血および死亡との関連を評価し,術前のINR至適値を同定することを目的として行った。主要評価項目:手術から72時間以内の大出血(4単位以上の輸血を必要とする)および30日後の死亡率。
デザイン 前向き登録研究の後ろ向き解析。
セッティング 多施設,米国。
期間 登録対象の手術施行期間は2008~2011年。
対象患者 636,231例。当該期間に米国外科医協会National Surgical Quality Improvement Program(ACS NSQIP)データベースに登録された,大手術をうけた全例のうち,INR値の記録がある症例。複数回手術をうけた症例は,最初の手術のみ対象とした。
【除外基準】-
【患者背景】平均年齢はINR<1群57.7歳,1~1.49群60.2歳,1.5~1.9群66.3歳,≧2群67.8歳。それぞれの女性62.6%,50.7%,42.4%,44.7%。経口薬またはインスリン療法中の糖尿病17.8%,19.5%,28.2%,26.6%。薬物療法を必要とする高血圧52.8%,56.4%,69.5%,73.9%。手術の分野:一般55.6%,56.4%,60.3%,53.1%,整形外科11.4%,10.6%,6.1%,7.3%,血管14.8%,17.4%,26.9%,30.8%。手術創感染リスク3.2%,8.3%,24.6%,17.9%。PCI施行歴22.2%,23.1%,24.0%,25.0%。心臓手術歴21.1%,23.4%,30.4%,33.4%。(本項にあげた項目はすべて群間差p<0.0001)
治療法 手術前のINR値にもとづき,<1群(125,034例),1~1.49群(479,155例),1.5~1.9群(20,156例),≧2群(11,886例)にわけて解析を行った。
追跡完了率 -
結果

●評価項目
大出血発現率は<1群5.1%,1~1.49群7.8%,1.5~1.9群16.6%,≧2群14.0%。INR<1に比し,大出血に関する補正後ORは以下の通り。
1~1.49:OR 1.22,95%CI 1.18-1.25。
1.5~1.9:OR 1.48,95%CI 1.40-1.56。
≧2:OR 1.49,95%CI 1.39-1.60。
死亡率は<1群0.8%,1~1.49群2.6%,1.5~1.9群13.5%,≧2群12.4%。
INR<1に比し,30日後の死亡に関する補正後ORは以下の通り。
1~1.49:OR 1.51,95%CI 1.41-1.62。
1.5~1.9:OR 2.31,95%CI 2.12-2.52。
≧2:OR 2.81,95%CI 2.56-3.10。
INRの至適術前値は,大出血に関しては1.10,死亡に関しては1.13であった。

●有害事象
-

文献: Tamim H, et al. Preoperative INR and postoperative major bleeding and mortality: A retrospective cohort study. J Thromb Thrombolysis 2016; 41: 301-11. pubmed
関連トライアル ACTION Registry-GWTG stratified analysis, Karrowni W et al
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