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DAPT Dual Antiplatelet Therapy
結論 薬剤溶出ステント(DES)留置後30ヵ月間の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)継続は,12ヵ月継続にくらべ,ステント血栓症および主要心/脳血管事象を抑制したが,出血リスクが上昇した。
コメント  薬剤溶出ステントはステント周囲の細胞増殖抑制効果を有する。急性期に血管内膜損傷を惹起することは仕方ないとして,長期間にわたって血栓イベントリスクを増やす。筆者はニトログリセリンと安静にてコントロールされる労作性狭心症の予防については,薬剤溶出ステントを植え込む適応はないと理解している。急性冠症候群では急性期の血栓イベントを回避できればよいので,動脈解離による血栓イベント予防のためには金属ステントで十分である。
 しかし,カテーテル治療を実行し,定期的に冠動脈造影を施行している医師たちは,冠動脈造影上の狭窄再発の少ない薬剤溶出ステントに意味を見出している。血管壁損傷の治癒が遅くなっても,抗血小板薬を長期に服用すればステント血栓症を予防できるとの発想は,筆者からみれば不思議である。
 薬剤溶出ステントは,単なる金属ステントよりも高価である。クロピドグレルのジェネリック品が多くの諸国にて使用可能になったとはいえ,抗血小板併用療法を長期に行えば,短期の時よりはコストがかかる。薬剤溶出ステントには遅延性ステント血栓症,長期の抗血小板併用療法には重篤な出血イベントという安全性のコストがある。すなわち,費用の点でも安全性の点でもコストのかかる治療が選択されている。
 本ランダム化比較試験では,薬剤溶出ステント留置12ヵ月後にランダム化を行った。その後18ヵ月の観察により薬剤溶出ステント留置後12ヵ月以上経過後の抗血小板併用療法の有効性と安全性を検証した。試験はランダム化二重盲検法により施行された。試験デザインの質は高い。上記のように費用,安全性の両面でのコストを強いる薬剤溶出ステントメーカーに対し,規制当局が本試験の実施を義務づけた。当局からの要請があれば,市場にて利潤がある限り,企業は当局の市場撤退の要請を避けるためにも科学的データの収集に協力する。抗血小板薬の長期処方により経済利益を得る抗血小板メーカーの施行した試験ではない点で,データの中立性が期待できる。
 本試験では,薬剤溶出ステント埋め込みの12ヵ月後にランダム化が行われている。12ヵ月以内に死亡,重篤な血栓イベント,出血イベントを起こさなかった比較的安定した症例がランダム化の対象となった。このような12ヵ月以上大きなイベントを起こしていない安定した症例,かつ30ヵ月の抗血小板併用療法を行った症例でも,0.4%のステント血栓症が発症した。12ヵ月にてアスピリン単剤となった症例では1.4%であった。
これまで,「薬剤溶出ステントは金属ステントに比し予後を改善した」との論文が多く出ている。しかし,本試験は第二世代ステントを用い,比較的安定している症例を選択するプロトコールであったにもかかわらず,主要心血管事象発症率(30ヵ月群4.3%,12ヵ月群5.9%)が高かった。特に心筋梗塞発症率(30ヵ月群2.1%,12ヵ月群4.1%)は他の臨床試験に比較して高く,これまでの報告との矛盾がみられた。長期の心筋梗塞リスクを増やすとの視点から,薬剤溶出ステントの意味を再考すべきである。
 長期の抗血小板併用療法を継続した症例では,総死亡率が高かった。心血管イベント(心筋梗塞とステント血栓症)は,薬剤溶出ステントを入れた症例でも長期の抗血小板併用療法により低減できる。しかし,死亡率はむしろ増えるとなれば,薬剤溶出ステント挿入により増加した個人の近未来イベントリスクは,薬剤介入ではコントロールできないと評価するのが妥当かもしれない。(後藤信哉

目的 DES留置後は,血栓性合併症予防のため6~12ヵ月間のDAPTが推奨されている。1年を超えてのDAPTが心筋梗塞リスクを抑制することがいくつかの観察研究より示唆されているが,DAPTを延長しても心筋梗塞リスクは低下せず,出血リスクが上昇するという臨床試験も報告されている。本試験は米国FDAからの要請をうけ,FDAと8つのステントおよび製薬企業の共同にて,ステント留置後1年を超えてのDAPTを継続することのベネフィットとリスクについて検討した。有効性の主要評価項目:12~30ヵ月後のステント血栓症(definite/probable)+主要有害心/脳血管事象(死亡,心筋梗塞,脳卒中)の累積発症率。安全性の主要評価項目:同期間における中等度~重度の出血(GUSTO出血基準BARC出血基準)。
デザイン 無作為割付,二重盲検,プラセボ対照試験。有効性:優越性,安全性:非劣性試験。NCT00977938。
セッティング 多施設(452施設),11ヵ国。
期間 登録期間は2009年8月13日~2011年7月1日。追跡期間は33ヵ月。
対象患者 9,961例。18歳以上,FDAにより認可されているDESまたはBMS留置後,DAPTを予定されている症例。ただし,本解析対象はDES留置後患者のみ(sirolimus,zotarolimus,paclitaxel,everolimus)。
【除外基準】-
【患者背景】平均年齢は30ヵ月群61.8歳,12ヵ月群61.6歳。各群の女性24.7%,26.0%。糖尿病31.1%,30.1%。高血圧75.8%,74.0%。現喫煙/前年の喫煙24.6%,24.7%。脳卒中/TIA 3.1%,3.4%。うっ血性心不全4.8%,4.5%。PCI歴30.4%,31.0%。CABG歴11.3%,11.8%。心筋梗塞既往22.0%,21.1%。PCIの適応:STEMI 10.6%,10.3%,NSTEMI 15.5%,15.5%,不安定狭心症16.7%,16.7%,安定狭心症37.5%,37.8%。
治療法 患者はステント留置後72時間以内に登録し,aspirin 75~162mg/日+clopidogrel 75mg/日またはprasugrel 10mg/日(体重<60kgでは5mg/日)を12ヵ月投与。12ヵ月後,主要心/脳血管事象,血行再建術再施行,中等度~重度の出血がなく,チエノピリジン系薬剤のアドヒアランスが良好な症例(14日を超える中断がなく,服用率が80~120%)について,以下の2群に無作為割付を行った。
30ヵ月群:5,020例。上記DAPTをさらに18ヵ月継続(DAPT期間は計30ヵ月)。
12ヵ月群: 4,941例。aspirin単独投与(DAPT期間は12ヵ月)。
追跡完了率 追跡完了は両群94.3%。
結果

●評価項目
30ヵ月群は12ヵ月群にくらべ,ステント血栓症,主要心/脳血管事象ともに抑制した。
ステント血栓症:30ヵ月群0.4% vs. 12ヵ月群1.4%,HR 0.29;95%CI 0.17-0.48,p<0.001。
主要心/脳血管事象:4.3% vs. 5.9%,HR 0.71;0.59-0.85,p<0.001。
心筋梗塞も30ヵ月群で抑制された(2.1% vs. 4.1%,HR 0.47;0.37-0.61,p<0.001)。
その他の項目は以下の通り。
全死亡:30ヵ月群2.0% vs. 12ヵ月群 1.5%,HR 1.36;1.00-1.85,p=0.05。
血管死:0.1% vs. 0.1%,p=0.98。
非心血管死:1.0% vs. 0.5%,p=0.002。
脳卒中:0.8% vs. 0.9%,p=0.32。
中等度~重度の出血は30ヵ月群のほうが多かった(2.5% vs. 1.6%,HR 1.61;1.21-2.16,p=0.001)。事前に定められた非劣性基準を満たさなかった(p=0.70)。
GUSTO出血基準重篤な出血:30ヵ月群0.81% vs. 12ヵ月群0.56%,p=0.15。
BARC出血基準致死性出血:0.15% vs. 0.09%,p=0.38。
チエノピリジン系薬剤中止後3ヵ月間,両群においてステント血栓症および心筋梗塞リスクが上昇した。

●有害事象

文献: Mauri L, et al.; the DAPT Study Investigators. Twelve or 30 Months of Dual Antiplatelet Therapy after Drug-Eluting Stents. N Engl J Med 2014; 371: 2155-66. pubmed
関連トライアル ADAPT-DES, ARCTIC-Interruption, CHAMPION PHOENIX, CHARISMA, COGENT, CREDO, DECLARE-DIABETES, DECLARE-LONG II, DES LATE, EVENT, EXCELLENT, GRAVITAS, j-Cypher, KAMIR, OPTIMIZE, PARIS, PRODIGY, PRODIGY type of stent, PRODIGY in-stent restenosis, REAL-LATE / ZEST-LATE, RESET, Sarafoff N et al, SPIRIT III, SPS3, TRILOGY ACS elderly patients, TRITON-TIMI 38, TRITON-TIMI 38 PCI
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