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PRASFIT-ACS Prasugrel Compared with Clopidogrel for Japanese Patients with ACS Undergoing PCI
結論 日本人の急性冠症候群(ACS)患者において,prasugrel負荷用量20mg/維持用量3.75mgはTRITON-TIMI 38の結果と同様に虚血イベント発症率の低下と関連しており,臨床的に重篤な出血の発症率も低い傾向であった。
コメント 抗血小板薬の用量設定に日本人と欧米人の差異を考慮すべきか否かは,古くて新しい問題である。チクロピジンの時代には,日本では世界の半分以下の用量(日本:100mg 1日2回,世界:250mg 1日2回)を選択し,結果として世界で問題になった血栓性血小板減少性紫斑病,汎血球減少などの副作用リスクを下げた。クロピドグレルの時代には「国際化」の流れの中で,日本でも欧米と同様の75mgが選択された。しかし,小柄な日本人での出血などの副作用リスクに対する考慮から,脳梗塞再発予防では高齢,低体重などの症例で50mgの選択も可能であった。プラスグレルの構造はクロピドグレルに近い。現時点で理解されている薬効は,いずれも活性代謝物による血小板膜上のADP受容体P2Y12の機能阻害である。日本で開発されたプラスグレルにて,国際共同試験TRITON-TIMI 38の用量を選択するか,日本独自の用量を選択するかは困難な選択であった。
日本以外の世界では,急性冠症候群を対象としてプラスグレル60mgローディング,10mg服薬の用量が選択され,クロピドグレル300mgローディング,75mg服薬の用量と有効性,安全性を比較した。Evidence based medicine(EBM)の原則はランダム化比較試験による臨床的仮説の検証の重視である。EBMの原則にしたがえば,日本も世界における仮説検証試験に参加すべきであった。プラスグレルの効果はクロピドグレルと同様,血小板のP2Y12 ADP受容体阻害に限局される。クロピドグレルよりも薬効のばらつきの小さいプラスグレルは,血栓イベントリスクの低い日本ではより低用量でもよいとも感じられた。実際,先行した日本を含まない国際共同試験TRITON-TIMI 38試験では,プラスグレル群の心筋梗塞/脳卒中/心血管死亡は減少したものの,致死的出血を含む重篤な出血イベントが多かったため,標準治療の転換を起こすことはできなかった。さらに,TRITON-TIMI 38試験のサブ解析では,脳卒中/TIA既往例ではプラスグレルの有効性シグナルも認めなかった。脳血管疾患有病率の高い日本,東アジア諸国にて低用量を選択した戦略は正しかったと考える。
PRASFIT-ACS試験では,プラスグレルの投与量として,欧米の1/3の量である20mgローディングと3.75mgの服薬を選択した。クロピドグレル300mgローディング,75mg服薬群と有効性,安全性ともに明確に劣ることはなかった。本試験は,日本の当局が要求したプラスグレル認可承認を目指した薬剤開発第III相試験である。チクロピジンからクロピドグレルへの転換時にも,日本人800例ほどの第III相試験が施行された。しかし,試験結果は英文として発表されていない。本試験は明確な仮説検証試験ではないが,英文論文として科学雑誌に出版された点は評価できる。
「日本人では世界の1/3量」でよい,かもしれないことを示唆した本試験のインパクトは,日本および東アジア諸国にて特に大きい。本試験を参照して,日本の急性冠症候群の抗血小板療法が「欧米の1/3量のプラスグレル」に転換されたら,EBMの世界にいる限り次世代の薬剤開発は困難となる。EBMは患者集団の均質性を仮定した世界である。「日本人集団」の出血,血栓イベントリスクが「欧米人集団」と異なることがコンセンサスになれば,今後の日本における抗血栓薬の開発試験は日本のみ独立して施行せねばなるまい。「日本人集団」が欧米人集団と異なる,となった場合には「韓国人集団」には日本人量がよいのか,欧米人量がよいのか悩ましい。世界人類の共通性を拠り所として発展したEBMの世界であるが,PRASFIT-ACS試験などの経験を重ねて,個人差を重視するpersonalized medicineの世界に転換するのであろうか?本試験にて探索的に使用された簡便な血小板凝集機能検査であるVerifyNowは,personalized medicineの指標となり得ないことを本試験は示唆してもいる。本試験,J-ROCKET AF試験など,同種同効薬が国際共同試験の用量を選択した中でもあえて日本人用量を選択する企業の存在は,国際共同試験の限界が薬剤開発のプロの世界で共有されていることを示唆して興味深い。(後藤信哉

目的 PCIを施行する日本人ACS患者において,prasugrelの有効性および安全性をclopidogrelと比較した。有効性の主要評価項目:24週後の主要有害心事象(MACE;心血管死,死亡,非致死的心筋梗塞[MI],非致死的脳梗塞の複合)。安全性の主要評価項目:最終投与から2週後までのCABGに関連しない出血。
デザイン 無作為割付,二重盲検試験。
セッティング 多施設(162施設),日本。
期間 試験期間は2010年12月~2012年6月。
対象患者 1,383例。20歳以上,10分以上続く胸部不快感もしくは虚血症状発現から72時間以内,≧1mmのST逸脱/≧3mmのT波反転/心筋壊死を示す心臓バイオマーカーレベル上昇がみられるACS患者で,ステント留置術を施行する症例。
【除外基準】難治性の生命に関わる心室性不整脈,現在の血小板減少性紫斑病または無顆粒球症もしくはその既往,汎血球減少症または再生不良性貧血,脳内出血の既往,脳梗塞/一過性脳虚血発作の既往,出血性疾患の既往または傾向,管理不良の高血圧,重度の肝/腎障害,NYHA IVの心不全,試験薬開始前5日間以内のチエノピリジン系薬剤または24時間以内の血栓溶解薬投与。
【患者背景】年齢中央値はprasugrel群65歳,clopidogrel群66歳。各群の女性21.8%,20.6%。BMI 24.2,24.2。ACSのタイプ:不安定狭心症/非ST上昇型MI 50.1%,49.7%,ST上昇型MI 49.6%,50.3%。高血圧72.3%,72.4%。脂質異常症75.3%,73.7%。糖尿病36.5%,35.0%。MI既往5.0%,5.2%。ステントのタイプ:ベアメタルステント51.5%,52.1%,薬剤溶出性ステント42.5%,41.0%。
治療法 以下の2群に無作為割付。
prasugrel群:685例。負荷用量20mg/維持用量3.75mg投与。
clopidogrel群:678例。300/75mg投与。
負荷用量はPCI施行前,緊急例では可能であればカテーテル室を出てから1時間後までに投与。維持用量は朝食後1日1回投与とし,負荷用量投与は当日に開始した。治療期間中,aspirin(初回用量81~330mg,その後81~100mg)を併用。その他の抗血小板薬,抗凝固薬,血栓溶解薬,非ステロイド性抗炎症薬継続投与は禁止とした。治療継続の推奨期間は48週としたが,担当医の裁量により24週での終了も可能とした。
追跡完了率
結果

●評価項目
24週後のMACEはprasugrel群64例(9.4%), clopidogrel 群80例(11.8%)で,同程度であった(HR 0.77,95%CI 0.56-1.07)。個々の項目は以下の通り。
心血管死:9例(1.3%)vs. 6例(0.9%),HR 1.45;0.51-4.07。
非致死的MI:52例(7.6%)vs. 68例(10.1%),HR 0.74;0.52-1.06。
非致死的脳梗塞:3例(0.4%)vs. 7例(1.0%),HR 0.43;0.11-1.68。
CABGに関連しないTIMI大出血はpurasugrel群13例(1.9%),clopidogrel群15例(2.2%)で同程度であった(HR 0.82;0.39-1.73)。

●有害事象
有害事象はprasugrel群89.8%,clopidogrel群88.5%,重篤な有害事象はそれぞれ27.4%,25.4%。

文献: Saito S, et al. Efficacy and Safety of Adjusted-Dose Prasugrel Compared With Clopidogrel in Japanese Patients With Acute Coronary Syndrome. Circ J 2014; 78: 1684-92. pubmed
関連トライアル ACCOAST, ACS後の患者における新規経口抗凝固薬の追加効果, APPRAISE, clopidogrel前投与と死亡,心血管イベント,大出血, COMPASS, CREDO, De Luca G et al, OPTIMIZE, PCI-CLARITY, PRINCIPLE-TIMI 44, RESTORE, Sarafoff N et al, TRILOGY ACS, TRILOGY ACS elderly patients, TRILOGY ACS secondary analysis , TRITON-TIMI 38, TRITON-TIMI 38 CABG cohort, TRITON-TIMI 38 diabetes, TRITON-TIMI 38 discharge aspirin dose, TRITON-TIMI 38 early and late benefits, TRITON-TIMI 38 PCI
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