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TRILOGY ACS Targeted Platelet Inhibition to Clarify the Optimal Strategy to Medically Manage Acute Coronary Syndromes
結論 不安定狭心症(UA)または非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)患者において,prasugrelはclopidogrelに比し,虚血イベントを減少させなかった。出血リスクは同程度であった。
コメント 一般的な患者の予後が改善した条件では,大規模試験による臨床的仮説の検証は困難になる。本試験は新規抗血小板薬の開発における臨床試験の困難性をさらに明確化した。もともと,ランダム化比較試験は,帰無仮説の検証に用いられる。帰無仮説は「新薬Aはプラセボと比較して有効性,安全性に差異がない」など単純な仮説であれば,検証が容易である。しかし,TRILOGY ACSでは検証された臨床的仮説が明確ではない。「内科治療を選択された不安定狭心症および非ST上昇型心筋梗塞症例において」プラスグレル/アスピリンと従来の標準治療であるクロピドグレル/アスピリンの有効性/安全性の差異を比較したような外貌を呈しながら,試験デザインは複雑であり,結果の解釈も難しい。急性冠症候群のイベント発症後10日以内に内科治療を選択された症例が一応の対象であるが,試験における見かけのイベントリスクを高めるためであろうか,60歳以上,糖尿病,心筋梗塞既往,血行再建の既往などのリスク因子を有する症例のみが対象とされた。さらに,72時間以内に無作為化された症例とそれ以外の症例が分けられている。ランダム化比較試験とはいっても,細かく分かれすぎているため,どの症例群において,何と何が比較されたのかがわかりにくい。
ランダム化比較試験は新薬の開発をめぐる巨大なビジネスとなった。従来型のランダム化比較試験による仮説の検証が困難な時代になったとはいえ,いきなりランダム化比較試験ビジネスから撤退することは難しい。ランダム化比較試験が困難になった理由は,一般的な予後が改善してイベント発症率が減少したことにある。「短期間ではイベント数が十分に起こらないのであれば,観察期間を長期化してイベント数を増やしていこう」とのランダム化比較試験ビジネス関係者の意図を感じるというのは考えすぎだろうか?また,ランダム化比較試験ビジネスを生かすためには,イベントの起こりやすいサブ集団のみを試験対象とするとの方法もある。このような状況でも,今後世界の巨大製薬企業は循環器領域のランダム化比較試験ビジネスへの投資を継続するのであろうか?筆者は次世代の薬剤開発は個人の特性にもとづいた「個別化医療」と理解しているが,「個別化医療」の科学的論理が確立されるまで,このような奇妙な試験が続くかもしれない。(後藤信哉

目的 75歳未満のUAまたはNSTEMI患者において,aspirin+prasugrel併用はaspirin+clopidogrel併用に比し,長期治療で優越性を示すか検討した。また二次解析として,75歳以上の患者における低用量prasugrelの評価も行った。有効性の一次エンドポイント:30カ月後の心血管死+非致死的心筋梗塞+非致死的脳卒中。安全性のエンドポイント:CABGに関連しない,重篤または生命に関わる出血(GUSTO出血基準),大出血(TIMI出血基準)。
デザイン 無作為割付,二重盲検。解析対象:有効性は intention-to-treat population,安全性は試験薬を1回以上投与された患者。NCT00699998。
セッティング 多施設(966施設),52カ国。
期間 登録期間は2008年6月27日~2011年9月12日。試験薬投与期間中央値は14.8カ月。追跡期間中央値は17.1カ月。
対象患者 9,326例。当該イベント発症後10日以内に,薬物療法を最終的なストラテジーとして選択された急性冠症候群(ACS)患者で,60歳以上,糖尿病,MI既往,血行再建術(PCIまたはCABG)歴のうち少なくとも1つを有する症例。
【主要除外基準】一過性脳虚血発作/脳卒中既往,PCI/CABG施行後30日以内,透析を要する腎不全,経口抗凝固療法中。
【患者背景】[75歳未満]年齢中央値はprasugrel群62歳,clopidogrel群62歳。各群の女性36.2%,35.6%。疾患分類:NSTEMI 67.8%,67.2%,UA 32.2%,32.8%。MI既往43.3%,44.8%,PCI歴27.0%,29.1%,CABG歴14.6%,16.3%。
[全例]年齢中央値はprasugrel群66歳,clopidogrel群66歳。各群の女性39.2%,39.1%。疾患分類:NSTEMI 70.4%,69.4%,UA 29.6%,30.6%。MI既往42.9%,43.3%,PCI歴25.6%,26.7%,CABG歴15.2%,16.1%。
治療法 prasugrel群またはclopidogrel群に無作為割付。72時間以内に無作為割付された患者(clopidogrel投与歴なし)では,負荷用量としてprasugrel 30mg,clopidogrel 300mgを投与後,維持用量を投与した。72時間以内に無作為割付されなかった患者では,clopidogrelをオープンラベルで投与後に無作為割付を行い,維持用量(下記)を投与した。両群にaspirinを併用し,用量は100mg/日が推奨された。
prasugrel群:4,663例(うち75歳未満3,620例)10mg(75歳以上もしくは体重60kg未満では5mg)。
clopidogrel群:4,663例(うち75歳未満3,623例)75mg。
追跡完了率 試験未完了は573例,生存状態に関する追跡不能は18例。
結果

●評価項目
[75歳未満]有効性の一次エンドポイント(心血管死+非致死的MI+非致死的脳卒中)はprasugrel群13.9%,clopidogrel群16.0%で,同程度であった(HR 0.91,95%CI 0.79-1.05,p=0.21)。
虚血イベント再発はprasugrel群のほうが少なかった(HR 0.85,95%CI 0.72-1.00,p=0.04)。
重篤または生命に関わる出血(GUSTO出血基準)は0.9% vs. 0.6%(HR 0.94,95%CI 0.44-1.99,p=0.87),大出血(TIMI出血基準)は2.1% vs. 1.5%(HR 1.31,95%CI 0.81-2.11,p=0.27)で,いずれも同程度であった。
[全例]有効性の一次エンドポイントはprasugrel群18.7%,clopidogrel群20.3%で,同程度であった(HR 0.96,95%CI 0.86-1.07,p=0.45)。
重篤または生命に関わる出血(GUSTO出血基準)は1.1% vs. 1.0%(HR 0.83,95%CI 0.48-1.46,p=0.53),大出血(TIMI出血基準)は2.5% vs. 1.8%(HR 1.23,95%CI 0.84-1.81,p=0.29)で,いずれも同程度であった。

●有害事象
非出血性の有害事象は,clopidogrel群でうっ血性心不全が多かったこと(1.3% vs. 1.8%,p=0.045)を除き,両群間で同程度であった。

文献: Roe MT, et al.; the TRILOGY ACS Investigators. Prasugrel versus Clopidogrel for Acute Coronary Syndromes without Revascularization. N Engl J Med 2012; 367: 1297-309. pubmed
関連トライアル ACCOAST, ACTIVE A, Andersson C et al, APPRAISE, APPRAISE-2, ATLAS ACS 2-TIMI 51, CHAMPION PHOENIX, CHARISMA, CLARITY-TIMI 28, clopidogrel追加による死亡率抑制効果, COGENT, COMPASS, CREDO, CURE, MINAP-GPRD, PLATO, PLATO renal function, PLATO total events, PRINCIPLE-TIMI 44, PRISM-PLUS 1998, PRoFESS, Rassen JA et al, REAL-LATE / ZEST-LATE, Sarafoff N et al, SPS3, TOSS-2, TRA 2P-TIMI 50 prior ischemic stroke, TRACER, TRILOGY ACS elderly patients, TRILOGY ACS secondary analysis , TRITON-TIMI 38, TRITON-TIMI 38 bleeding, TRITON-TIMI 38 CABG cohort, TRITON-TIMI 38 diabetes, TRITON-TIMI 38 discharge aspirin dose, TRITON-TIMI 38 early and late benefits, TRITON-TIMI 38 PCI, 血管疾患患者に対する抗血小板療法
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