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TRA 2P-TIMI 50 Thrombin Receptor Antagonist in Secondary Prevention of Atherothrombotic Ischemic Events - Thrombolysis in Myocardial Infarction 50
結論 安定アテローム性動脈硬化症患者において,標準治療へのvorapaxarの追加は心血管死または虚血イベントの再発を抑制したが,頭蓋内出血を含む中等度~重度の出血リスクを増大させた。
コメント 止血に必須の役割を演じる血小板の機能を阻害すると出血性合併症が増加する。この原理は基本的な抗血小板薬であるアスピリンにおいても,チクロピジン,クロピドグレル,プラスグレルなどのP2Y12ADP受容体阻害薬についても事実であった。血小板上のトロンビン受容体protease activated receptor(PAR)1については,複数のPAR-1阻害薬においてphase II試験では重篤な出血性合併症は増加しないことが示された。phase III試験では,抗血小板併用療法を前提とする急性冠症候群では頭蓋内出血などの重篤な出血性合併症が増えてしまったため試験途中で中止となった。今回発表されたTRA 2°P-TIMI 50は冠動脈疾患,脳血管疾患,末梢血管疾患などのアテローム血栓症を対象とした,クロピドグレルの開発ではCAPRIE試験(CAPRIE 1996CAPRIE 1999CAPRIE 2000)に相当する試験であった。
すでに脳卒中の既往のある症例では頭蓋内出血イベント増加のため試験は中止されていた。冠動脈疾患,末梢血管疾患において試験が継続されており,今回は試験全体の結果の発表となった。アテローム血栓症と包括されていても臓器ごとの相違が大きく存在することが明らかになった。心筋梗塞の既往のある症例では比較的メリットが大であった。しかし,末梢血管疾患ではメリットは明確ではなく,脳卒中後の症例ではデメリットが大きかった。
心筋梗塞は直径数mmの冠動脈の血栓性閉塞により惹起されるため,血小板と凝固系のpositive feedbackの寄与が大きいと想定される。脳は血管径が小さいため,血小板のみでも脳梗塞が起こりうる。本研究の結果は病態生理と薬効薬理の観点からも妥当性がある。
蛇足であるが,本研究はハーバード大学のTIMIグループと日本がはじめて本格的に行った国際共同研究である。日本人医師,研究者にとっては歴史的インパクトのある研究である。(後藤信哉

目的 アテローム性動脈硬化症患者において,標準抗血小板療法へのvorapaxar追加の心筋梗塞(MI)および脳卒中二次予防効果を検討する。有効性の一次エンドポイント:心血管死,MI,脳卒中の複合( TRACER の結果を受け,当初の一次エンドポイント「心血管死,MI,脳卒中,虚血再発による緊急血行再建術の複合」を上記に変更し,こちらは二次エンドポイントとした)。安全性の一次エンドポイント:GUSTO出血基準の中等度~重度の出血。
デザイン 無作為割付け,プラセボ対照,二重盲検。intention-to-treat解析。NCT00526474。
セッティング 多施設(1,032施設),32カ国(日本を含む)。
期間 登録期間は2007年9月26日~2009年11月13日。追跡期間中央値は30ヵ月。
対象患者 26,449例。アテローム性動脈硬化症の既往例[過去2週間~12ヵ月間のMIまたは脳梗塞,あるいは間欠性跛行の既往を有する末梢動脈疾患(PAD)で,足首上腕血圧比<0.85もしくは虚血肢の血行再建術の既往を有する患者]。脳梗塞またはPAD患者は登録者数が総サンプルサイズの15%に達した時点で登録を終了した。
【除外基準】血行再建術施行予定,出血素因歴,亜急性の活動性異常出血,warfarin投与中,活動性肝胆汁性疾患。
【患者背景】年齢中央値はvorapaxar群61歳,プラセボ群61歳。各群の女性23.8%,24.0%,アテローム性動脈硬化症の内訳:MI 67.3%,67.2%,脳梗塞18.4%,18.5%,PAD 14.3%,14.3%。糖尿病25.5%,25.4%,高血圧68.4%,69.0%,高脂血症83.1%,83.3%,現喫煙20.8%,20.8%,冠動脈疾患78.1%,78.4%,血行再建術既往65.3%,65.2%,PAD 21.9%,22.3%,脳血管障害既往23.7%,23.7%, eGFR<60mL/分/1.73m2 16.2%,15.1%。服薬状況:MI症例(aspirin 98.1%,98.1%;チエノピリジン77.9%,78.4%),PAD症例(87.8%,88.2%;36.8%,36.8%),脳卒中症例(81.2%,80.7%;23.6%,23.7%;dipyridamole 19.5%,19.4%)。
治療法 以下の2群に無作為割付。
vorapaxar群:13,225例。2.5mg/日投与。
プラセボ群:13,244例。
強力なCYP3A4阻害薬またはwarfarinとチエノピリジン系薬の併用療法を要する患者では試験を中止。抗血小板薬を含むその他の併用薬は,各地域の標準にしたがい主治医が管理した。

2011年1月,追跡期間中央値24ヵ月で,データ安全性モニタリング委員会がvorapaxar群の脳卒中既往例での頭蓋内出血増加を報告し,試験期間中の新規脳卒中発症例も含む脳卒中患者への投与の中止を勧告した。それ以外の患者への投与は継続した。
追跡完了率 追跡不能は32例(0.1%)。
結果

●評価項目
3年後の一次エンドポイント(心血管死+MI+脳卒中)発生率は,vorapaxar群のほうが低かった:1,028例(9.3%)vs. 1,176例(10.5%),HR 0.87,95%CI 0.80-0.94,p<0.001)。
各イベントの発生率は以下の通りであった。心血管死:2.7% vs. 3.0%(p=0.15),MI:5.2% vs. 6.1%(p=0.001),全脳卒中:2.8% vs. 2.8%(p=0.73),脳梗塞:2.2% vs 2.6%(p=0.06)。
脳卒中既往例における一次エンドポイント発生率は同等であった:15.2% vs. 16.4%,HR 0.95;0.80-1.11,p=0.50。
二次エンドポイント(心血管死+MI+脳卒中+虚血再発による緊急血行再建術)発生率はvorapaxar群のほうが低かった:1,259例(11.2%)vs. 1,417例(12.4%),HR 0.88;0.82-0.95,p=0.001。
サブグループ:体重<60kgの患者ではvorapaxarの有効性は認められなかった(交互作用p=0.03)。
正味の臨床転帰(有効性+安全性の一次エンドポイント)について,vorapaxar群のベネフィットは認められなかった:1,315例(11.7%)vs. 1,358例(12.1%),HR 0.97;0.90-1.04,p=0.40。

●有害事象
GUSTO基準による中等度~重度の出血(4.2% vs. 2.5%,HR 1.66;1.43-1.93,p<0.001),TIMI基準による臨床的に重篤な出血(15.8% vs. 11.1%,HR 1.46;1.36-1.57,p<0.001),頭蓋内出血(1.0% vs. 0.5%,HR 1.94;1.39-2.70,p<0.001)はvorapaxar群で増加した。

文献: Morrow DA, et al.; TRA 2P-TIMI 50 Steering Committee and Investigators. Vorapaxar in the secondary prevention of atherothrombotic events. N Engl J Med 2012; 366: 1404-13. pubmed
関連トライアル ACTIVE A, APPRAISE, APPRAISE-2, ASPIRE, ATLAS ACS 2-TIMI 51, ATLAS ACS-TIMI 46 , BAT, CAD患者に対するPAR-1拮抗薬の安全性および有効性, CASPAR , CHAMPION PCI, CHAMPION PLATFORM, CHARISMA, CHARISMA bleeding complications, CHARISMA subgroup analysis, CLARITY-TIMI 28, COGENT, COMPASS, COURAGE, CURE, ECASS III, ECLAP, HORIZONS-AMI , ISAR-REACT 3, J-LANCELOT, JPAD, MATCH, OPUS-TIMI 16, PLATO, POISE-2, PRISM-PLUS 1998, PURSUIT 1998, REAL-LATE / ZEST-LATE, RESTORE, TRA 2P-TIMI 50 previous myocardial infarction, TRA 2P-TIMI 50 prior ischemic stroke, TRACER, TRITON-TIMI 38, WASID, WAVE, WHS
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