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メタ解析
aspirin連日投与による癌転移抑制効果
Effect of daily aspirin on risk of cancer metastasis: a study of incident cancers during randomised controlled trials
結論 aspirin連日投与が癌の遠隔転移を抑制することが癌死の早期減少の一因と考えられた。本結果はaspirinが癌の治療薬となる可能性を示唆し,遠隔転移予防のための薬理学的介入の理論の証明を提供するものである。
コメント 日本人の死因の圧倒的第1位は悪性腫瘍であるため,アスピリンのがんに対する効果は日本人としては見逃せない。本研究では心血管イベントを対象としたアスピリンを含むランダム化比較試験をメタ解析した。平均追跡期間は6.5年と十分に長い。仮説の検証を目的とした単一のランダム化比較試験ではないため,本研究成果は仮説を作り出す試験と理解すべきである。それでもがんの遠隔転移を30%以上抑制したとの結果はインパクトがある。腺癌については死亡率低減効果もみられた。
近年利益相反(COI)の多い論文が多く,企業の宣伝と科学的事実の混同が時にみられる。本論文掲載誌Lancetは,日本から高血圧試験について,自ら発表した論文について後日懸念を表明している雑誌であり,New England Journal of Medicineよりは信頼性が低いとされる場合が多い。しかし,本論文の作成グループは独立した研究を続けることで名高いオックスフォード大学のグループであり,報告された数値自体は信頼性がある。仮説検証型の試験は難しいかもしれないが,がんのインパクト,本論文で呈示された仮説の重要性を考えると,将来の仮説検証型試験が期待される。(後藤信哉

目的 aspirin連日投与は長期の腺癌発生を抑制する。しかし死亡抑制効果は数年経過後に認められることから,癌の進行/転移も抑制するのではないかと推測されている。本解析では,aspirinの短期効果は転移抑制によるとの仮説を立て,血管イベント予防のためにaspirinと対照を比較した英国のRCT 5試験において,初回診断時および追跡時の新規癌転移を調査し,aspirinの癌転移抑制効果を検討する。
方法 血管イベント予防のためにaspirin(用量は問わない)と非aspirin[他の抗血小板薬の併用なし,あるいは他の抗血栓薬を使用(aspirin群と非aspirin群で均衡が保たれている場合)]を比較した英国のRCTを同定。追跡期間における癌の発生が10例未満の試験,急性血管イベントに対する短期治療(≦90日)に関する試験,癌または大腸ポリープのための治療/予防に関する試験は除外した。
対象 大規模RCT 5試験( BDT UK-TIA TPT ,POPADAD,AAA),17,285例。
内訳:血管疾患一次予防2試験,亜急性の血管イベント発症後の二次予防1試験,無症候性末梢動脈疾患に関する2試験。
いずれの試験も血管イベント予防のためにaspirin(≧75mg/日)群と対照群を比較。
主な結果 平均追跡期間6.5年における固形癌の新規診断は987例であった。

・遠隔転移
aspirinは癌の遠隔転移を抑制した。
全癌:HR 0.64;95%CI 0.48-0.84,p=0.001。
腺癌:HR 0.54;0.38-0.77,p=0.0007。
腺癌以外の固形癌:HR 0.82;0.53-1.28,p=0.39。
[部位]
aspirinの部位別の遠隔転移抑制効果は以下のとおりで,部位による不均一性は認められなかった(不均一性p=0.10)。
肺転移:HR 0.34;0.14-0.83,p=0.018。
肝転移:HR 0.66;0.42-1.03,p=0.07。
脳転移:HR 0.65;0.34-1.24,p=0.19。
骨転移:HR 1.17;0.69-2.01,p=0.56。
その他の部位/多部位:HR 0.36;0.18-0.70,p=0.003。
[腺癌]
aspirinは,初回診断時に腺癌の転移がみられた症例における追跡時の腺癌(HR 0.69;0.50-0.95,p=0.02)に対するよりも,初回診断時に転移がみられなかった腺癌患者における追跡時の転移(HR 0.45;0.28-0.72,p=0.0009)に対する抑制効果が大きく,その効果はとくに大腸癌(HR 0.26;0.11-0.57,p=0.0008),および診断後も治療を継続した患者(全腺癌HR 0.31;0.15-0.62,p=0.0009,大腸癌HR 0.13;0.03-0.56,p=0.007,その他の腺癌HR 0.47;0.21-1.05,p=0.06)で著しかった。

・限局癌
aspirinの限局癌に対する抑制効果は認められなかった。
全固形癌:HR 1.24;1.01-1.53,p=0.040。
腺癌:HR 1.24;0.94-1.63,p=0.14。
腺癌以外の固形癌:HR 1.24;0.91-1.69,p=0.16。

・癌死
aspirinは腺癌死リスクを有意に抑制したが(HR 0.65;0.53-0.82,p=0.0002),その他の癌死リスクは抑制しなかった(HR 1.06;0.84-1.32,p=0.64)(交互作用p=0.003)。
aspirinの死亡抑制効果は,初回診断時に転移が認められなかった腺癌患者で著しかった(癌死HR 0.50;0.34-0.74,p=0.0006,全死亡HR 0.69;0.49-0.97,p=0.03)。

なお,aspirinの効果は年齢,性別とは独立したものであったが,絶対ベネフィットは喫煙者でもっとも大きかった。徐放性低用量aspirinの効果は高用量と同程度であった。
文献: Rothwell PM, et al. Effect of daily aspirin on risk of cancer metastasis: a study of incident cancers during randomised controlled trials. Lancet 2012; 379: 1591-601. pubmed
関連トライアル AAA, aspirinの一次および二次予防効果(ATT), aspirin長期連用による癌死リスク抑制効果, aspirin連日投与による短期の癌発生,癌死,非血管死抑制効果, BAFTA, CAPRIE 1996, CAST, CAST-IST, CREDO, ESPRIT , IST 1997, JPAD, TPT
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