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メタ解析
aspirin連日投与による短期の癌発生,癌死,非血管死抑制効果
Short-term effects of daily aspirin on cancer incidence, mortality, and non-vascular death: analysis of the time course of risks and benefits in 51 randomised controlled trials
結論 先行試験で報告された長期の癌死抑制効果に加え,aspirinは短期の癌発生・癌死を抑制し,また延長使用によりおもな頭蓋外出血およびその死亡率を抑制したことより,癌予防のためのaspirin連日投与の可能性が示唆された。
コメント アスピリンとがんに関する話題が続けて英国から発表された。試験のデザインは,主要エンドポイントが心血管病である試験のメタ解析であるためいずれも仮説検証型の試験ではなく,仮説を生み出す試験である。しかし,解析対象は膨大であり,データには信頼性がある。
ピロリ菌の感染は慢性胃炎の原因であるとともに胃がんの主要な原因因子である。アスピリンは上部消化管傷害をしばしば合併するにもかかわらず,発がんとの関連の報告がない。炎症が発がんにつながる場合と炎症が発がんを阻害する場合があるとの観点から,抗炎症効果もあるアスピリンによる胃粘膜の炎症は発がんの視点からはピロリ菌感染とはまったくの別物なのであろう。
日本人の死因の圧倒的多数はがんである。日本人のがんに対する恐怖感情は強い。アスピリンにがん死の予防効果があるか否かには多くのヒトが強い興味をもっているはずである。中立的なグラントによる本格的な仮説検証型の研究が期待される。(後藤信哉

目的 aspirin連日投与は長期癌死リスクを抑制する。しかしながら,特に女性における短期的効果については不確かなところがあり,また癌発生に対する効果はほとんど知られておらず,一次予防の経時的なリスク・ベネフィットは明らかでない。本メタ解析では,血管疾患一次予防試験において,低用量aspirin連日投与が癌発生およびその他のアウトカムに及ぼす経時的効果を検討する。
方法 Antithrombotic Trialists’(ATT)Collaboration,PubMed,Embaseでの“aspirin”または“salicyl*”または“antiplatelet”と“randomised controlled trial”を用いた検索(最終検索は2010年3月12日),Cochrane Collaboration Database of Systematic Reviewの関連システマティックレビュー検索,他に発表された抗血小板薬に関する試験のシステマティックレビューより,aspirinと対照を比較したRCTを同定。言語の制限は設けなかった。
対象:aspirin連日投与(用量は問わない)と非aspirinを比較し,両群ともに他の抗血小板薬を併用していない試験(治療背景としての抗凝固薬の併用は可とした),およびaspirin連日投与のみの試験も採用した。
除外:短期治療(≦90日)に関する試験,癌の二次予防,大腸ポリープに関する試験。
対象 RCT 51試験,77,549例(aspiring投与40,269例,対照40,363例)。
試験:一次予防12試験,二次予防39試験。
aspirinの用量:高用量(≧300mg)31試験,低用量(<300mg)20試験。
主な結果 ・癌死
34試験(69,224例)において,aspirinは癌死を抑制した(aspirin群562例 vs. 対照群664例,OR 0.85;0.76-0.96,p=0.008)。
追跡年ごとの評価では,aspirinは5年後以降の癌死を抑制した。
0~2.9年:OR 0.90;0.76-1.06,p=0.18。
3.0~4.9年:OR 0.93;0.75-1.16,p=0.51。
≧5年:OR 0.63;0.49-0.82,p=0.0005。

・癌発生
血管疾患一次予防のための低用量aspirinに関する6試験(35,535例)において,aspirinは3年後以降の癌発生を抑制した。
<3年:全体 445例 vs. 442例,OR 1.01;0.88-1.15,p=0.92。
男性 269例 vs. 284例,OR 0.94;0.80-1.12,p=0.49。
女性 176例 vs. 158例,OR 1.13;0.91-1.40,p=0.28。
≧3年:全体 324例 vs. 421例,OR 0.76;0.66-0.88,p=0.0003。
男性 192例 vs. 245例,OR 0.77;0.63-0.93,p=0.008。
女性 132例 vs. 176例,OR 0.75;0.59-0.94,p=0.01。

・非血管死
51試験(77,549例)において,aspirinは非血管死を抑制した(aspirin群1,021例 vs. 対照群1,173例,OR 0.88;0.78-0.96,p=0.003,不均一性p=0.92)。
高用量・低用量,一次・二次予防の試験ごとの統合結果は以下のとおりであった。
高用量: OR 0.88;0.76-1.01,p=0.11,不均一性p=0.76。
低用量: OR 0.87;0.78-0.97,p=0.01,不均一性p=0.89。
一次予防:OR 0.88;0.78-0.98,p=0.02,不均一性p=0.98。
二次予防:OR 0.88;0.74-1.02,p=0.07,不均一性p=0.98。

・血管疾患一次予防のための低用量aspirinのリスク・ベネフィット
血管疾患一次予防のための低用量aspirinに関する6試験では,aspirinによる主要血管イベント抑制効果は大出血リスクが上昇することで相殺されたが,両者に対するaspirinの影響は経時的に減少し,3年後以降は癌発生リスク抑制効果のみが残った。
[絶対リスク減少]
癌発生:0~2.9年:-0.06/1,000人・年,OR 1.01;0.88-1.15。
3.0~4.9年:2.19/1,000人・年,OR 0.81;0.67-0.98。
≧5年: 4.80/1,000人・年,OR 0.70;0.56-0.88。
(交互作用p=0.04)
主要血管イベント:0~2.9年:2.04/1,000人・年,OR 0.82;0.72-0.92。
3.0~4.9年:-0.10/1,000人・年,OR 1.00;0.84-1.20。
≧5年:0.99/1,000人・年,OR 0.93;0.74-1.16。
(交互作用p=0.07)
主要頭蓋外出血:0~2.9年:-1.33/1,000人・年,OR 1.95;1.47-2.59。
3.0~4.9年:-0.59/1,000人・年,OR 1.37;0.87-2.14。
≧5年:0.96/1,000人・年,OR 0.63;0.34-1.16。
   (交互作用p=0.003)
文献: Rothwell PM, et al. Short-term effects of daily aspirin on cancer incidence, mortality, and non-vascular death: analysis of the time course of risks and benefits in 51 randomised controlled trials. Lancet 2012; 379: 1602-12. pubmed
関連トライアル AAA, ASPIRE, aspirinの一次および二次予防効果(ATT), aspirin長期連用による癌死リスク抑制効果, aspirin連日投与による癌転移抑制効果, BAFTA, CAPRIE 1996, CAST, CAST-IST, COMMIT, CREDO, HOT post-hoc subgroup analysis, IST 1997, TPT, WHS
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