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TRACER Thrombin receptor antagonist for clinical event reduction in acute coronary syndrome
結論 非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)患者において,標準療法へのvorapaxarの追加は虚血イベントを抑制せず,頭蓋内出血を含む大出血を増加させた。
コメント 本試験は,結果がもっとも待ち望まれた試験の一つである。本試験では,従来の抗血小板薬とはまったく異なる薬効メカニズムを有するトロンビン受容体阻害薬vorapaxarの有効性,安全性が初めて大規模に検証された。本試験は真の意味での新薬の有効性,安全性の検証がなされた。本試験の結果は臨床試験の標準からはnegativeと判断されてしまう。しかし,内容を十分に見ると,positiveな結果を出すことが可能であった試験だけに残念である。本試験では,有効性の一次エンドポイントを典型的な心血管死亡,心筋梗塞,脳卒中とせず,これに再入院をともなう虚血再発,緊急血管再建術を入れた複合エンドポイントとした,後半のソフトなエンドポイントを加えたことが致命的となる。本試験ではvorapaxarを追加した群にて出血イベントが多かったため,安全性委員会の勧告により試験は中途で中止された。中止の時点で,心血管死亡,心筋梗塞,脳卒中はvorapaxar群にて少なかったが,一次エンドポイントでは差異がなかった。日本のヒトの柔らかい頭脳にて対応すれば,最初に決めた一次エンドポイントに差がなくても,心血管死亡,心筋梗塞,脳卒中が少なかったらいいではないか?との議論もあり得るが,形式を重視する欧米ではあくまでも一次エンドポイントにおける仮説の検証ができなかった試験である。薬を生かすも殺すも試験のデザイン次第というところが恐ろしい。(後藤信哉

目的 NSTE-ACS患者における心血管虚血イベント再発の抑制について,標準療法へのvorapaxarの追加がプラセボに比し優れているか検討する。有効性の一次エンドポイント:心血管死,心筋梗塞(MI),脳卒中,再入院をともなう虚血再発,緊急血行再建術の複合。安全性の一次エンドポイント:GUSTO出血基準の中等度~重度の大出血およびTIMI出血基準の臨床的に重要な出血。
デザイン 無作為割付,二重盲検。NCT00527943。
セッティング 多施設(818施設),37カ国。
期間 登録期間は2007年12月18日~2010年6月4日(中国では2010年11月30日)。
対象患者 12944例。虚血発作後24時間以内に来院したNSTE-ACS患者で,以下のうち1つ以上の所見を有する者:心筋トロポニン・CK-MBなどが正常値上限より上昇,新規の0.1mV以上のST低下,隣接する複数の誘導で0.1mV以上の一過性(30分未満)のST上昇。さらに,以下のうち1つ以上を有する者とした;55歳以上,MI/PCI/CABG既往,糖尿病,末梢動脈疾患。
【除外基準】表記なし。
【患者背景】年齢中央値は,vorapaxar群 64(58~71)歳,プラセボ群64(58~72)歳。各群の女性28.0%,28.2%。高血圧70.1%,71.0%。脂質異常症62.4%,62.2%。糖尿病31.5%,31.4%。現喫煙27.0%,27.6%。クレアチニンクリアランス<30mL/分1.7%,1.4%,30~60mL/分12.0%,12.1%。抗血小板薬:チエノピリジン87.6%,87.1%,aspirin 96.4%,96.9%。
治療法 GP IIb/IIIa受容体拮抗薬および非経口直接トロンビン阻害薬投与の有無により層別化後,vorapaxar群,プラセボ群に無作為割付。
vorapaxar群:6473例。負荷用量40mg投与後,維持用量2.5mg/日を投与。
プラセボ群:6471例。
患者の大多数はaspirin+P2Y12阻害薬併用投与を受けた。
追跡完了率 追跡不能は15例(0.1%)。
結果

●評価項目
本試験は2011年1月の安全性のレビュー後早期中止となった。
試験薬中止はvorapaxar 群28.2%とプラセボ群26.8%より多かった。
一次エンドポイント(心血管死,MI,脳卒中,再入院をともなう虚血再発,緊急血行再建術の複合)はvorapaxar 群1031例(15.9%),プラセボ群1102例(17.0%)と有意差は認められなかった(Kaplan-Meier 2-year rate:18.5% vs. 19.9%,HR 0.92,95%CI 0.85-1.01,p=0.07)。
二次エンドポイント(心血管死,MI,脳卒中の複合)は822例(12.7%)vs. 910例(14.1%)とvorapaxar 群のほうが少なかった(Kaplan-Meier 2-year rate:14.7% vs. 16.4%,HR 0.89,95%CI 0.81-0.98,p=0.02)。

●有害事象
vorapaxar 群はプラセボ群に比し出血が増加した(数値はすべてKaplan-Meier 2-year rateを示す)。
GUSTO出血基準の中等度~重度の大出血:vorapaxar 群7.2% vs. プラセボ群5.2%,HR 1.35,95%CI 1.16-1.58,p<0.001。
TIMI出血基準の臨床的に重要な出血:vorapaxar 群20.2% vs. プラセボ群14.6%,HR 1.43,95%CI 1.31-1.57,p<0.001。
頭蓋内出血はvorapaxar 群1.1% vs. プラセボ群0.2%,HR 3.39,95%CI 1.78-6.45,p<0.001。

文献: Tricoci P, et al.; TRACER Investigators. Thrombin-receptor antagonist vorapaxar in acute coronary syndromes. N Engl J Med 2012; 366: 20-33. pubmed
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