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ATOLL Acute Myocardial Infarction Treated with Primary Angioplasty and Intravenous Enoxaparin or Unfractionated Heparin to Lower Ischemic and Bleeding Events at Short- and Long-term Follow-up
結論 プライマリ経皮的冠動脈形成術(pPCI)を受けるST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者において,enoxaparin静注は未分画ヘパリン(UFH)に比し,出血および手技不成功を増加させずに虚血転帰を減少させた。
コメント 日本は深部静脈血栓症の予防,治療にも低分子量ヘパリンの使用率が低い世界でもまれな国であるが,欧米諸国を中心に低分子量ヘパリン,エノキサパリンは広く使用されている。本研究ではST上昇型の急性心筋梗塞の症例を対象として,未分画ヘパリンとエノキサパリンの有効性が比較検討された。最近,急性冠症候群治療における抗血小板療法の重要性が強調されるが,血栓イベント発症予防において抗凝固療法も重要な役割を演じている。エノキサパリンと未分画ヘパリンの薬理作用に差異があるとは考え難いので,未分画ヘパリンにてモニタリングが不十分な場合には標準化された低分子量ヘパリンよりもイベントが多いと理解するのであろうか?(後藤信哉

目的 STEMI患者に対するpPCIの前処置はこれまで伝統的にUFHが用いられ,低分子量ヘパリン(LMWH)との直接的比較は行われていない。本試験では,pPCIを受けるSTEMI患者において,UFHとenoxaparinを比較する。一次エンドポイント:30日の全死亡,MI合併症,手技不成功,STEEPLE出血基準大出血の複合。
デザイン ランダム化,オープン。intention-to-treat解析。NCT00718471。
セッティング 多施設(64施設),4カ国(オーストリア,フランス,ドイツ,米国)。
期間 登録期間は2008年7月~2010年1月。
対象患者 910例。17歳以上,pPCIの適応を有する発作から12時間以内のSTEMI *患者。発作から12~24時間,持続する虚血症状を有する,かつ/または心電図で持続性/再発性ST上昇が認められる患者。pPCIの適応を有する症例,STEMIの発作中にショックまたは心停止(10分未満)の症例も対象とした。
*:虚血性胸痛が20分以上持続し,かつ隣接する複数の誘導でST上昇(前胸部誘導で2mm以上,または下肢誘導で1mm以上)が認められるか,新規の左脚ブロックが認められるもの。
【除外基準】ランダム化前に何らかの抗凝固薬(UFH,LMWH,fondaparinux,warfarin)を投与,当該発作に線溶薬を投与,aspirin,チエノピリジン,ヘパリン禁忌など。
【患者背景】年齢中央値はenoxaparin群59(52~71)歳,UFH群60(52~70)歳。各群の女性22%,22%。病歴:現喫煙44%,47%,糖尿病14%,15%,脂質異常症40%,40%,高血圧46%,45%,MI既往6%,10%,脳卒中既往3%,2%。ランダム化の場所:救急車71%,71%,病院の緊急治療室4%,6%,心疾患集中治療室4%,4%,カテーテル室21%,20%。発作からランダム化までの経過時間中央値153(89~290)分,139(86~277)分。病変部位:左主幹部2%,1%,左前下行枝43%,40%,回旋枝10%,17%,右冠動脈45%,41%。併用薬:aspirin 96%,95%,clopidogrel 93%,93%,GP IIb/IIIa受容体拮抗薬(GPI)77%,83%。
治療法 enoxaparin群またはUFH群にランダム化。試験薬はできるだけシース挿入前,かつ搬送前に投与された。
enoxaparin群:450例。0.5mg/kgボーラス静注。手技が2時間以上に長引いた場合,もしくは術者が必要と判断した場合は0.25mg/kgを追加した。腎機能にもとづいた用量調整の勧告はされなかった。pPCI後の抗凝固薬の延長は術者の裁量とした。心房細動など標準用量の抗凝固療法の適応がある場合は,必要に応じ,ビタミンK拮抗薬に置き換えるまでenoxaparin 1mg/kg,1日2回皮下投与(腎機能により用量調整)。もしくは,抗凝固薬を継続する場合は予防用量(40mg,1日1回皮下投与)を投与。
UFH群:460例。現行の推奨にしたがい,GPIを投与されていない場合は初回ボーラス投与としてUFH 70~100IU/kg,投与された場合は50~70IU/kgを静注。手技中は,GPIを投与されていない場合は活性化凝固時間(ACT)を300~350秒,投与された場合は200~300秒を保つよう追加ボーラス投与を可とした。手技後の抗凝固薬の延長は担当医の裁量とした。継続する場合,標準用量の抗凝固療法の適応でないならUFH予防用量の静注または皮下投与を推奨。
全例にaspirin(75~500mg/日),チエノピリジンを投与。GPIは担当医の裁量とした。
追跡完了率 100%。
結果

●評価項目
一次エンドポイントはenoxaparin群126例(28%)と,UFH群155例(34%)に比し減少傾向がみられた(RR 0.83,95%CI 0.68-1.01,p=0.06)。
一次エンドポイントの各要素は以下の通り。
死亡:17例(4%)vs. 29例(6%),p=0.08。
MI合併症:20例(4%)vs. 29例(6%),p=0.21。
手技不成功:100例(26%)vs. 109例(28%),p=0.61。
大出血:20例(5%)vs. 22例(5%),p=0.79。
enoxaparinは二次エンドポイント(全死亡,急性冠症候群再発,緊急血行再建術の複合)を減少させた(7% vs. 11%,RR 0.59,95%CI 0.38-0.91,p=0.015)。
死亡,MI合併症,大出血の複合(10% vs. 15%,p=0.03),死亡,MI合併症の複合(8% vs. 12%,p=0.02),死亡,MI再発,緊急血行再建術の複合(5% vs. 8%,p=0.04)はすべてenoxaparin群で減少した。

●有害事象
[評価項目]に記載。

文献: Montalescot G, et al.; ATOLL Investigators. Intravenous enoxaparin or unfractionated heparin in primary percutaneous coronary intervention for ST-elevation myocardial infarction: the international randomised open-label ATOLL trial. Lancet 2011; 378: 693-703. pubmed
関連トライアル ACUITY bivalirudin, Cohen M et al, ExTRACT-TIMI 25, ExTRACT-TIMI 25 clopidogrel, ExTRACT-TIMI 25 PCI, PCI施行中におけるenoxaparinとUFHの比較, Rabah MM et al, STEEPLE, STEEPLE anticoagulation level, SYNERGY, TIMI 11B, TRANSFER-AMI
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