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メタ解析
aspirin長期連用による癌死リスク抑制効果
Effect of daily aspirin on long-term risk of death due to cancer: analysis of individual patient data from randomised trials
結論 aspirin長期連用は試験期間中・試験後の数種類の一般的な癌による死亡を抑制した。ベネフィットは治療期間が長いほど大きく,試験対象集団が異なっても一様に認められた。これらの所見はaspirinの使用指針や発癌とその薬物療法感受性についての理解に影響を与えるものである。
コメント 8つの臨床試験の中で,単独でアスピリン治療群において癌死亡率が有意に低かったのは UK-TIA のオッズ比0.45(0.25-0.82)だけであり,全部をメタ解析で総合すると0.79(0.68-0.92)と21%の有意な抑制がみられた。ちなみに,日本で糖尿病を対象に行われたJPADでは,オッズ比は0.80(0.40-1.57)であった。アスピリンの癌に対する効果は,5年以上追跡してはじめて明らかになるという。しかも,解析の対象とした臨床試験でのアスピリンによる治療期間は全例4年以上であった。癌の種類については,腺癌が最も効果が大きかったが,臓器は消化管癌に留まらない。本論文は,低用量アスピリンの心血管事故抑制効果と出血性副作用増加のバランスに癌死の抑制という新たな要素を考慮する必要があるかもしれないことを示唆した点で注目すべきである。しかし,癌の予防という観点からのアスピリン服用を推奨するのは時期尚早である。(島田和幸

目的 5年以上のaspirin長期連用は結腸直腸癌の続発リスクを抑制する。aspirinはいくつかの先行研究より他の癌,特に消化管癌のリスクも抑制する可能性が示唆されているが,ヒトにおける研究は不足している。本解析は,血管イベント一次・二次予防のために4年以上aspirin投与が行われたRCTのデータを用い,致死的癌に対するaspirinの効果を検討する。
方法 aspirin(用量は問わない)と非aspirin(他の薬剤の併用なし,他の抗血栓薬併用ありのいずれか)を比較したRCTで,治療期間平均/中央値が最低4年,範囲が5年を超えるものを検索。血管イベント一次予防・二次予防は区別しなかった。 ATT の解析結果を考慮して,文献検索はATTの検索が行われた2002年以降に限定した。試験はCochrane Collaboration Database of Systematic Reviewの関連システマティックレビュー検索およびPubMed,Embase(いずれも最終検索は2010年3月12日)にて,検索語randomised controlled trialかつaspirinまたはsalicyl*またはantiplateletを用いて検索した。言語の制限は設けなかった。
対象 RCT 8試験,25570例。
表記は順に症例数,治療,予定試験期間中央値(範囲),ランダム化時の年齢,男性の割合
TPT
5085例,aspirin 75mg/日 vs. プラセボ,6.9(4.3~8.6)年,57.5±6.7歳,100%。
UK-TIA
2435例,aspirin 300mg/日 vs. 1200mg/日 vs. プラセボ,4.4(1.0~7.1)年,60.3±9.0歳,73.0%。
[BDAT]
5139例,aspirin 500mg/日 vs. 対照薬,6.0(5.0~6.0)年,61.6±7.0歳,100%。
ETDRS
3711例,aspirin 650mg vs. プラセボ,5.0(4.0~9.0)年,51(20~70)歳,56.5%。
JPAD
2539例,aspirin 81または100mg vs. プラセボ,4.4(3.0~5.4)年,64.5±10.0歳,54.6%。
SAPAT
2035例,aspirin 75mg vs. プラセボ,4.2(1.9~6.3)年,67±8歳,52%。
[POPADAD]
1276例,aspirin 100mg vs. プラセボ,6.7(4.5~8.6)年,60.3±10.0歳,44.1%。
AAA
3350例,aspirin 100mg vs. プラセボ,8.2(6.7~10.5)年,62.0±6.6歳,28.5%。
主な結果 ・癌死
8試験(25570例,癌による死亡674例)において,aspirinは癌死を抑制した(aspirin群327/14035例 vs. 対照群347/11535例,OR 0.79,95%CI 0.68-0.92,p=0.003)。不均一性は認められなかった(不均一性p=0.84)。

・全死亡
aspirinは全死亡を抑制した(aspirin群1432/14035例 vs. 対照群1275/11535例,OR 0.92;0.85-1.00,p=0.047)。

・追跡期間別のベネフィット
個人データが得られた7件(23535例,癌死657例)の検討によると,ベネフィットは5年間追跡して初めて明らかとなった。
[全癌]
追跡期間0~5年:HR 0.86;0.71-1.04,p=0.11。
5年以上:HR 0.66,0.50-0.87,p=0.003。
[消化管癌]
追跡期間0~5年:HR 0.96;0.67-1.38,p=0.81。
5年以上:HR 0.46,0.27-0.77,p=0.003。

・癌死の20年リスクの抑制
データが得られた3件(12659例,癌死1634例)の検討によると,aspirinは癌死の20年リスクを抑制した。
[全固形癌]
HR 0.80;0.72-0.88,p<0.0001。
[消化管癌]
HR 0.65,0.54-0.78,p<0.0001。

ベネフィットは治療期間の予定期間が長くなるにつれ上昇した(交互作用p=0.01)。
≧7.5年:全固形癌HR 0.69;0.54-0.88,p=0.003,消化管癌:HR 0.41,0.26-0.66,p=0.0001。

服用開始から死亡抑制効果が出るまでにかかる推定期間は食道,膵臓,脳,肺癌では約5年であったが,胃,結腸直腸,前立腺癌ではそれより遅れた。
肺および食道癌ではベネフィットは腺癌に限定され,癌死の20年リスク抑制における効果は腺癌で最大であった(HR 0.66;0.56-0.77,p<0.0001)。

aspirinのベネフィットは用量(75mg以上),性別,喫煙と関連していなかったが,加齢とともに上昇した(65歳以上における癌死の20年リスクの絶対的減少:7.08%;2.42-11.74)。
文献: Rothwell PM, et al. Effect of daily aspirin on long-term risk of death due to cancer: analysis of individual patient data from randomised trials. Lancet 2011; 377: 31-41. pubmed
関連トライアル aspirinの一次および二次予防効果(ATT), aspirin連日投与による癌転移抑制効果, aspirin連日投与による短期の癌発生,癌死,非血管死抑制効果, CAPRIE 1996, CAST, CAST-IST, CREDO, ISIS-2 10 year survival, IST 1997, 非ST上昇型ACS患者におけるルーチン侵襲治療と選択的侵襲治療の長期転帰
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