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HOT post-hoc subgroup analysis
結論 慢性腎疾患(CKD)をともなう高血圧患者において,aspirinによる主要心血管事象および死亡率の絶対的減少は,正常腎機能者に比し大きかった。大出血リスクの上昇よりもベネフィットの方が上回ると考えられる。
コメント アスピリンの一次予防は,最近のメタアナリシスで1000年・人の治療で0.6心血管系イベントを予防するが,0.3イベントの頭蓋外大出血を増加させるということで,患者ごとにリスクを評価し投与を考慮すべきとなっている[ aspirinの一次および二次予防効果(ATT)]。実際, HOT study のメインの結果でもアスピリンの効果はあるが,出血によって相殺された(1.6イベント減少対1.4出血イベント増加/1000年・人)。目下,一次予防でアスピリンの利益が有害作用を上回る候補者探しが課題となっている。本論文は,重症のCKDはアスピリンによって出血のリスク増加を上回る利益が得られるという可能性を示した。重症のCKDはそれだけベースラインのリスクが高いということに他ならないが,重症CKDは全集団の3%しかおらず,しかもpost-hoc解析であり,確定的とは決していえない。しかし現状では,重症腎障害患者のアスピリンは必ずしも流布しているとはいえず,今後の注目すべきトピックスであろう。(島田和幸

目的 CKD患者では心血管リスクが上昇することから,aspirinによる絶対的ベネフィットは正常腎機能者より大きいと考えられるが,同時に出血リスクも上昇することから,抗血小板療法のリスク/ベネフィットは不明である。本論文はHOT試験のサブ解析として,CKDをともなう高血圧患者に対する抗血小板療法のリスク/ベネフィットを,eGFR値にもとづくCKDのステージ別に検討する。一次エンドポイント:主要心血管事象[心筋梗塞(MI),脳卒中,心血管死の複合]。
デザイン HOTはランダム化,オープン(降圧目標値),ファクトリアル試験。
セッティング HOTは多施設,26ヵ国(欧州,北米,南米,アジア)。
期間 登録期間は1992年10月~1994年4月。追跡終了は1997年8月。平均追跡期間は3.8年。
対象患者 18597例。HOT対象患者(年齢50~80歳,DBP 100~115mmHg)のうち,ベースライン時の血清クレアチニン値のデータが得られた症例。なおHOTでは腎機能による除外は設けなかった。
【除外基準】―
【患者背景】[eGFR≧60mL/分/1.73m 2の症例(14978例)]
年齢はaspirin群,プラセボ群とも60.6±7.2歳。女性42%,43%。eGFR中央値(IQR)77(69~88)mL/分/1.73m 2,77(69~89)mL/分/1.73m 2。血圧両群169/105mmHg。糖尿病両群8%。MI既往両群1%。他のCAD既往両群6%。脳卒中既往両群1%。
[eGFR≧45~59mL/分/1.73m 2の症例(3083例)]
年齢はaspirin群65.0±7.5歳,プラセボ群64.9±7.5歳。女性68%,66%。eGFR中央値(IQR)両群55(52~58)mL/分/1.73m 2。血圧両群171/105mmHg。糖尿病9%,7%。MI既往両群2%。他のCAD既往両群7%。脳卒中既往両群2%。
[eGFR<45mL/分/1.73m 2の症例(536例)]
年齢はaspirin群66.1±8.2歳,プラセボ群66.1±7.9歳。女性64%,64%。eGFR中央値(IQR)40(34~43)mL/分/1.73m 2,39(32~43)mL/分/1.73m 2。血圧両群173/105mmHg。糖尿病12%,11%。MI既往2%,3%。他のCAD既往両群7%。脳卒中既往3%,2%。
治療法 HOTはaspirin群(9399例。aspirin 75mg/日),プラセボ群(9391例),およびDBPの目標降圧値(≦90,≦85,≦80mmHg)によりランダム化(ファクトリアルデザイン)。
追跡完了率 100%。
結果

●評価項目
対象患者のうち,eGFR≧60mL/分/1.73m 2は14978例(80.5%),同45~59は3083例(16.6%),同<45は536例(2.9%)であった。
aspirinによる一次エンドポイント抑制は,eGFR低値例ほど大きかった(傾向p=0.03)。aspirinと目標降圧値との交互作用は認められなかった。
≧60mL/分/1.73m 2例:aspirin群3.10% vs. プラセボ群3.38%,HR 0.91,95%CI 0.76-1.09。
45~59 mL/分/1.73m 2例:4.26% vs. 5.01%,HR 0.85;0.61-1.17。
<45mL/分/1.73m 2例:4.17% vs. 11.76%,HR 0.34;0.17-0.67。
全体:3.32% vs. 3.90%,HR 0.85;0.73-0.98。
一次エンドポイントの個々の要素は以下の通りであった。
MI(傾向p=0.08)
≧60mL/分/1.73m 2例:HR 0.78;0.61-1.00。
45~59 mL/分/1.73m 2例:HR 0.64;0.39-1.03。
<45mL/分/1.73m 2例:HR 0.31;0.11-0.85。
脳卒中(傾向p=0.06)
≧60mL/分/1.73m 2例:HR 1.09;0.83-1.44。
45~59 mL/分/1.73m 2例:HR 1.02;0.64-1.62。
<45mL/分/1.73m 2例:HR 0.21;0.06-0.75。
心血管死(傾向p=0.04)
≧60mL/分/1.73m 2例:HR 1.08;0.81-1.43。
45~59 mL/分/1.73m 2例:HR 0.92;0.54-1.54。
<45mL/分/1.73m 2例:HR 0.36;0.14-0.90。
全死亡(傾向p=0.04)
≧60mL/分/1.73m 2例:HR 1.00;0.83-1.20。
45~59 mL/分/1.73m 2例:HR 0.89;0.60-1.31。
<45mL/分/1.73m 2例:HR 0.51;0.27-0.94。
正味のベネフィットはeGFR低値例ほど大きく,<45mL/分/1.73m 2の症例1000例に対しaspirinを3.8年投与することにより,大出血が27件発生するものの,主要心血管事象は76件,全死亡は54件予防できる。

●有害事象
aspirinによる出血リスクは,有意ではないがeGFR低値例ほど上昇した(傾向p=0.30)。aspirinと目標降圧値との交互作用は認められなかった。
eGFR≧60mL/分/1.73m 2例:HR 1.52;1.11-2.08。
45~59 mL/分/1.73m 2例:HR 1.70;0.74-3.88。
<45mL/分/1.73m 2例:HR 2.81;0.92-8.84。

文献: Jardine MJ, et al. Aspirin is beneficial in hypertensive patients with chronic kidney disease: a post-hoc subgroup analysis of a randomized controlled trial. J Am Coll Cardiol 2010; 56: 956-65. pubmed
関連トライアル AAA, APPRAISE, aspirin連日投与による短期の癌発生,癌死,非血管死抑制効果, CHARISMA, CHARISMA post hoc analysis, CREDO, HOT, PLATO renal function, WHS, 安定循環器疾患に対する低用量aspirin
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