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J-LANCELOT Japanese-Lesson from Antagonizing the Cellular Effect of Thrombin
結論 日本人の急性冠症候群(ACS)および高リスクの冠動脈疾患(CAD)患者において,標準的な抗血小板療法にPAR-1阻害薬atopaxar(E5555)を追加すると,臨床的に重要な出血を増加させずに主要有害心臓事象(MACE)を抑制する可能性が示された。検討した全用量にて有意な血小板凝集が得られたが,肝機能異常およびQTcFの用量依存性の増加が認められた。
コメント トロンビン受容体拮抗作用を有する新規抗血小板薬の我が国での臨床開発試験成績である。用量設定試験であり,対象は冠動脈疾患である。200mgでは,多少の出血と肝機能,QTcFの副作用の増加がみられた。中心用量は100mgあたりに設定するのだろうか?メインのトライアルで,主要心血管イベントに対する効果を検証するわけだが,我が国ではGP IIb/IIIaの有効性が検証できなかった経験があり,ましてPCI,クロピドグレル併用下の現状況下で差を出すことは困難が予想される。(島田和幸

目的 日本人のACSおよび高リスクCAD患者において,標準的な抗血小板療法にE5555を追加した場合の安全性および有効性を検討。一次エンドポイント:出血(CURE出血基準TIMI出血基準)。二次エンドポイント:MACE(心血管死,心筋梗塞,脳卒中,虚血再発)。
デザイン ランダム化,二重盲検,phase II,intention-to-treat解析。ACS:NCT00619164,CAD:NCT00540670。
セッティング 多施設,日本。
期間 試験薬投与期間はACS患者12週,CAD患者24週。追跡は試験薬最終投与の4週後まで。
対象患者 504例(ACS患者241例+CAD患者263例)。45~80歳の患者。
[ACS]最後の発作が登録の24時間前以内に起きたNSTEMIまたは不安定狭心症の入院患者。新規の虚血性胸痛の症状発現あるいはその増悪がみられるか,安静時/軽い労働時に何らかの虚血の兆候がみられる症例(5分以上持続する胸痛,硝酸塩などの舌下投与を要するなど)。さらに,入院時に以下の基準を1つ以上満たす者:トロポニンT/I/CK-MBが正常値上限超,心電図上の虚血性変化(隣接する複数の誘導で1mm以上のST低下,3mm以上のT波逆転,20分以内の一過性ST上昇など)。
[CAD]以下の1つより確診されたCAD患者:ACSまたはPCIから4週以上経過,CABGから12週以上経過,心電図または画像により確認された虚血を有する狭心症,血管造影で確認された70%以上の冠動脈狭窄。さらに以下の高リスクを有する[糖尿病治療歴,確診された末梢動脈疾患の既往,確診された1年以内のアテローム性一過性脳虚血発作(TIA)または脳卒中の既往]。
【除外基準】後天性/先天性の出血性疾患(凝血障害または血小板の異常を含む),頭蓋内出血の既往,1年以内の虚血性脳卒中またはTIA,既知の構造的脳血管病変,スクリーニング時の活動性病的出血またはスクリーニングから24週前までの原因不明の出血の既往(消化管,泌尿生殖器など),不安定糖尿病,重篤な腎障害(血清クレアチニン>2.0mg/dL),NYHAクラスIII/IVの心不全,確診された慢性肝疾患かつ/またはALT/ASTが正常値上限の3倍超または総ビリルビンが正常値上限の1.5倍超,経口抗凝固薬または線溶薬使用。
【患者背景】[ACS]平均年齢はE5555 50mg群65.4±8.0歳,100mg群66.3±8.5歳,200mg群63.8±8.9歳,プラセボ群64.5±9.8歳。男性87.0%,80.0%,73.8%,82.0%。ACS既往25.9%,20.0%,18.0%,14.8%。TIA/脳卒中13.0%,6.2%,8.2%,6.6%。糖尿病40.7%,32.3%,36.1%,27.9%。高血圧77.8%,81.5%,75.4%,73.8%。脂質異常症72.2%,80.0%,83.6%,68.9%。試験期間のPCI 85.2%,83.1%,90.2%,90.2%。
[CAD]平均年齢はE5555 50mg群66.8±7.5歳,100mg群66.7±7.4歳,200mg群67.1±6.8歳,プラセボ群65.4±7.2歳。男性92.1%,89.4%,85.3%,83.3%。ACS既往76.2%,78.8%,69.1%,62.1%。TIA/脳卒中14.3%,16.7%,13.2%,19.7%。糖尿病95.2%,93.9%,94.1%,95.5%。高血圧79.4%,78.8%,88.2%,80.3%。脂質異常症88.9%,90.9%,89.7%,90.9%。
治療法 スクリーニング前に全例にaspirin 75~325mgを4週間以上投与し,ACS患者,CAD患者とも以下の4群にランダム化。試験薬は1日1回経口投与した。
ACS患者(241例):E5555 50mg群54例,100mg群65例,200mg群61例,プラセボ群61例。投与期間は12週。なお第1日(ランダム化直後),E5555の3群全例に対して400mg負荷用量投与を行った。
CAD患者(263例):E5555 50mg群63例,100mg群66例,200mg群68例,プラセボ群66例。投与期間は24週。
追跡完了率 試験薬中止率はACS患者:E5555 50mg群33.3%,100mg群32.3%,200mg群32.8%,プラセボ群27.9%(p=0.641)。CAD患者:9.5%,12.1%,25.0%,6.1%(p<0.001)。
結果

●評価項目
TIMI出血(大/小/医学的な配慮を必要とする軽微な出血)はACS患者:E5555群9例(5.0%),プラセボ群4例(6.6%),CAD患者:3例(1.5%)vs. 1例(1.5%)と同等であった。TIMI大出血は認められず,CURE大出血が3例(ACS患者プラセボ群2例,CAD患者E5555 100mg群1例)に発生した。
E5555 200mg群において,TIMI全出血が数値上増加した;ACS患者:200mg群14例(23.0%),プラセボ群10例(16.4%)(p=0.398)。CAD患者:9例(13.2%)vs. 3例(4.5%)(p=0.081)。
MACEは,ACS患者ではE5555群9例(5.0%),プラセボ群4例(6.6%)(RR 0.76,95%CI 0.257-2.606,p=0.73),CAD患者では2例(1.0%)vs. 3例(4.5%)(RR 0.22,95%CI 0.041-1.109,p=0.066)と同等であった。主に虚血再発で,心血管死はみられなかった。
平均血小板凝集阻害率は,ACS患者,CAD患者とも100mg群,200mg群では90%超であったが,50mg群ではACS患者20~50%,CAD患者50~60%であった。

●有害事象
E5555群において,肝機能異常(ALT,AST),QTcFの用量依存性の上昇が認められた。

文献: Goto S, et al.; J-LANCELOT (Japanese-Lesson from Antagonizing the Cellular Effect of Thrombin) Investigators. Double-blind, placebo-controlled Phase II studies of the protease-activated receptor 1 antagonist E5555 (atopaxar) in Japanese patients with acute coronary syndrome or high-risk coronary artery disease. Eur Heart J 2010; 31: 2601-13. pubmed
関連トライアル 3T/2R, APPRAISE, APPRAISE-2, ATLAS ACS 2-TIMI 51, ATLAS ACS-TIMI 46 , CAD患者に対するPAR-1拮抗薬の安全性および有効性, IMPACT-I, Kereiakes DJ et al 1996, LANCELOT-ACS, LANCELOT-CAD, PLATO bleeding complications, RESTORE, RUBY-1, SEPIA-ACS1 TIMI 42, TRA 2P-TIMI 50, TRA 2P-TIMI 50 previous myocardial infarction, TRACER, TRITON-TIMI 38 early and late benefits, TRITON-TIMI 38 PCI
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