抗血栓トライアルデータベース
home
テキストサイズ
メタ解析
aspirinの糖尿病患者心血管イベント一次予防効果
Aspirin for primary prevention of cardiovascular events in people with diabetes
結論 糖尿病患者の主要心血管イベント一次予防において,今回の解析ではaspirinの明確なベネフィットは確認されなかった。しかし,男性では有意な心筋梗塞一次予防効果が示され,性別が重要な効果修飾因子である可能性が示唆された。一方,出血の副作用に関しては,aspirinによるリスクの有意な増加は認められなかった。明確な一次予防効果については,進行中の大規模試験(ASCEND,ACCEPT-D)の結果がまたれる。
コメント 糖尿病患者での一次予防にアスピリンは有効でないという一寸意外なメタ解析の結果である。出血性副作用に関してネガティブだったのはパワー不足であろう。一次予防効果あるいは副作用との相殺で有効性がないというのは,しかし,最近のATT解析とも一致する。ただし,有意ではないといえ信頼限界すれすれなので,傾向はあるといえよう。アスピリンが心筋梗塞や脳卒中既往を含めたハイリスク患者全般では22%の相対リスク減少があることがほぼ確立されている。糖尿病の一次予防では10%程度の相対リスク減少に留まった理由としては,糖尿病はハイリスクカテゴリーであるが,他のハイリスク患者とは別の機序(すなわちthromboxaneとは異なる)で心血管疾患のハイリスクになっているのかも知れない。アスピリンによる抗血栓治療が,未だアテローム血栓性疾患を発症していない段階で果たして効果があるのか,あるとすれば性別,治療期間,用量など,どのような因子と関連するのか,来るべき大規模試験の結果が待たれる。(島田和幸

目的 先行のメタ解析により,aspirinの主要心血管イベント抑制効果が報告されている。本研究では,心血管疾患既往のない糖尿病患者におけるaspirinの有用性とリスクを検討する。
方法 MEDLINE(1966~2008年11月),Cochrane central register of controlled trials(Cochrane Library 2008;issue 4)より,検索語“diabetes mellitus”,“aspirin”およびRCT検索フィルターを用い,糖尿病患者500例以上をaspirinまたは対照群(プラセボまたは非治療)に割り付けて行われた前向きランダム化比較試験(オープンまたは盲検化)を検索。検索対象は英語論文のみ。また,検索された研究およびレビュー論文の参照文献より,発表済みの関連データも検索した。
対象 6試験(10117例)が該当。
(表記は順に対象者,aspirin用量,糖尿病患者数,治療期間,男性の割合,平均年齢)
PHS(1989)
健常男性,325mg隔日,533例,5年,100%,NA。
ETDRS(1992)
1型および2型糖尿病患者,650mg/日,3711例,5年,56.5%,NA。
PPP(2003)
心血管リスクを1つ以上有する>50歳の男女,100mg/日,1031例,3.6年,48.2%,64.3±7.5歳。
WHS(2005)
健常女性,100mg隔日,1027例,10.1年,0%,NA。
POPADAD(2008)
ABIが≦0.99だが症候性心血管疾患のない40歳以上の1型および2型糖尿病患者,100mg/日,1276例,6.7年,44.1%,NA。
JPAD(2008)
アテローム性動脈硬化症の既往のない2型糖尿病患者,81または100mg/日,2539例,4.37年,55%,65±10歳。
主な結果 ・主要心血管イベント(対象:5試験,9584例)
aspirinによる抑制傾向がみられた(RR 0.90,95%CI 0.81-1.00,p=0.06)。不均一性は認められなかった(Q=0.94,p=0.92,I 2=0%)。
・心筋梗塞(対象:6試験,10117例)
aspirinによる抑制は認められなかった(RR 0.86,95%CI 0.61-1.21,p=0.37)。不均一性は中等度であった(Q=13.21,p=0.02,I 2=62.2%)。
・脳卒中(対象:5試験,9584例)
aspirinによる抑制は認められなかった(RR 0.83,95%CI 0.60-1.14,p=0.25)。不均一性は中等度であった(Q=8.43,p=0.08,I 2=52.5%)。
・心血管死(対象:4試験,8557例)
aspirinによる抑制は認められなかった(RR 0.94,95%CI 0.72-1.23,p=0.68)。不均一性は中等度であった(Q=6.92,p=0.07,I 2=56.6%)。
・全死亡(対象:4試験,8557例)
aspirinによる抑制は認められなかった(RR 0.93,95%CI 0.82-1.05,p=0.22)。不均一性は認められなかった(Q=1.02,p=0.80,I 2=0%)。

[サブグループ解析]
・脳卒中
aspirinの抑制効果は用量(≦100mg/日:RR 0.71,95%CI 0.53-0.94),投与期間(>5年:RR 0.60,95%CI 0.42-0.87)により差がみられた。
・心筋梗塞
 aspirinの抑制効果は男性で顕著であった(RR 0.57,95%CI 0.34-0.94,p=0.03)。

[有害事象]
・全出血(対象:3試験,7281例)
 aspirinによるリスク増加は認められなかった(RR 2.50,95%CI 0.76-8.21)。
・消化管出血(対象:3試験,4846例)
 aspirinによるリスク増加は認められなかった(RR 2.11,95%CI 0.64-6.95)。
・消化管症状(対象:2試験,3815例)
 aspirinによるリスク増加は認められなかった(RR 5.09,95%CI 0.08-314.39)。
・癌(対象:2試験,2307例)
 aspirinによるリスク増加は認められなかった(RR 0.84,95%CI 0.62-1.14)。

なお,現行基準にもとづくと,各試験の質は次善のものであった(割付順番の隠蔵の適切な記載 ,アウトカム評価者のブラインド化など)。
文献: De Berardis G, et al. Aspirin for primary prevention of cardiovascular events in people with diabetes: meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ 2009; 339: b4531. pubmed
関連トライアル aspirinの一次および二次予防効果(ATT), JPAD, PPP, WHS, 安定循環器疾患に対する低用量aspirin
関連記事