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Shuldiner AR et al(PAPI/Sinai病院研究) Association of cytochrome P450 2C19 genotype with the antiplatelet effect and clinical efficacy of clopidogrel therapy
結論 CYP2C19*2遺伝子型はclopidogrel療法による血小板反応を減弱させ,心血管転帰を悪化させる。
コメント 個人のすべてのゲノム情報の解析が費用的にも時間的にも可能な時代を迎えつつある。われわれの個人差を規定する因子のうち「遺伝子による差異」の情報が明らかであることを前提に「個別的医療」を行う時代が来た。本研究はパーソナルゲノム情報に基づいた個別医療の方向性を示した貴重な研究である。従来,医療介入の妥当性は患者集団に対する薬剤介入の結果を評価する「evidence based medicine」が主流であった。世界に広大な市場を獲得したクロピドグレルも,患者集団に使用した時の血栓イベント減少,出血イベント増加のバランスがアスピリンに優るとされて市場を獲得したのだ。evidence based medicineの時代において,個別の患者に対する安全性,有効性の評価は行わないのが「ゲームのルール」であった。今後患者集団に対する医療から個別医療への転換は「ゲームのルール」の変更である。本論文の研究は古い「ゲームのルール」にとらわれながら,新しい「ゲームのルール」での個別化医療への指標に血小板凝集機能検査を用いている。血栓イベントとも,出血イベントとも関連しないことが示されている血小板凝集機能検査を指標としているところが本論文の不十分な点である。
「ゲームのルール」の変更においても従来通り米国が主導権を握るのか,欧州,ないしアジアがルール作りにおいて先行できるか,われわれは欧米人の作った「Evidenceに基づいた」という古い発想の枠組みから早く抜け出す必要がある。(後藤信哉

目的 clopidogrelの作用に影響を与える遺伝子変異を同定するため,薬剤使用やライフスタイルが比較的均一と考えられるオールド・オーダー・アーミッシュにおいてADP誘発性血小板凝集に関するゲノムワイド関連解析を実施し(Amish Pharmacogenomics of Antiplatelet Intervention:PAPI試験),その結果を心血管疾患高リスク集団にて検証する(Sinai Hospital of Baltimore Study:Sinai病院研究)。
デザイン [PAPI試験]コホート研究。NCT0079936。
[Sinai病院研究]評価者盲検。NCT00370045。
セッティング 米国。
期間 [PAPI試験]登録期間は2006年8月~2008年10月。
[Sinai病院研究]登録期間は2004年1月~2007年5月。追跡期間は12ヵ月。
対象患者 [PAPI試験]429例。20歳以上の健常者。
[Sinai病院研究]227例。18歳以上の非緊急PCI施行患者。
【除外基準】表記なし。
【患者背景】[PAPI試験]男性49.9%。平均年齢は男性43.9±13.2歳,女性47.3±14.4歳。白人100%,100%。高血圧5.1%,6.0%。高コレステロール血症24.3%,27.4%。糖尿病0.5%,0.9%。aspirin服用2.8%,1.4%。
[Sinai病院研究]男性59.9%。平均年齢は男性62.5±11.4歳,女性67.0±11.0歳。白人68.4%,51.6%。高血圧75.0%,79.1%。高コレステロール血症81.6%,79.1%。糖尿病28.7%,48.4%。aspirin服用100%,100%。
治療法 [PAPI試験]血小板凝集を測定後clopidogrel 300mgを経口投与し,その後6日間75mg/日を投与。追跡血小板凝集測定は最終投与の1時間後に実施した。2回目の追跡血小板凝集測定は同日,aspirin 324mg(チュアブル錠)経口摂取の1時間後に実施した。血小板機能評価はPAP8E Aggregometerを用いた。
[Sinai病院研究]PCI施行当日,clopidogrel 600mg(112例)または300mg(25例)を投与。残りの90例はすでに75mg/日の維持用量投与を受けており,当日の負荷用量投与は行わなかった。患者はbivalirudinまたはヘパリン投与を受けた(eptifibatide併用107例,非併用120例)。抗凝固薬は全例にて手技終了時に中止した。全例にaspirin 81~325mg/日をPCI前の最低1週間投与し,手技当日は325mgを投与。退院時,全例がaspirin 325mg/日およびclopidogrel 75mg/日投与を受けていた。血小板機能の測定は,eptifibatide投与例では退院の5日以上後,非投与例では退院日に行った。血小板機能評価はChronolog Lumi-Aggregometerを用いた。
追跡完了率
結果

●評価項目
[PAPI試験]clopidogrelに対する血小板反応は強い遺伝性が認められた(h 2=0.73,95%CI 0.49-0.97,p<0.001)。
10q24染色体上のCYP2C18-CYP2C19-CYP2C9-CYP2C8クラスター内の13のSNPsはclopidogrelに対する反応性減弱と強く相関していた。これらのSNPsには相互に強い連鎖不平衡が認められた(最も強い関連がみられたrs12777823ではr 2=0.35-0.99,p = 1.5×10-13)。
CYP2C19*2 遺伝型は,他の白人集団における結果と同様にPAPI試験対象者の17%にみられ,clopidogrel反応性減弱との関連が認められた(p = 4.3×10-11)。CYP2C19*2 変異をもつ対象者では,clopidogrelによるADP誘発性血小板凝集の抑制が12%低減していた。
CYP2C19*2遺伝子型はaspirin誘発性血小板凝集に影響を与えず,CYP2C19*2遺伝子型とclopidogrelによるADP誘発性血小板凝集の作用との関連は,aspirin投与後も持続していた(p = 7.9×10-13)。
[Sinai病院研究]CYP2C19*2 遺伝子型と血小板凝集の関係は,clopidogrel投与を受けた冠インターベンション施行患者において再現された(p=0.02)。
12ヵ月後の追跡にて,CYP2C19*2 変異患者は非変異患者に比し,1年後の心虚血事象または死亡のリスクが高かった(20.9% vs 10.0%,HR 2.42,95%CI 1.18-4.99,p=0.02)。

●有害事象

文献: Shuldiner AR, et al. Association of cytochrome P450 2C19 genotype with the antiplatelet effect and clinical efficacy of clopidogrel therapy. JAMA 2009; 302: 849-57. pubmed
関連トライアル AFIJI CYP2C19, EXCELSIOR CYP2C19, FAST-MI CYP2C19 and PPI, FAST-MI genetic determinants, Mega JL et al, POPular CYP2C19*2, Sibbing D et al(2010)
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