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第82回日本循環器学会学術集会(JCS 2018)2018年3月23〜25日,大阪
リアルワールドのVTE患者に対する抗凝固療法-COMMAND VTE Registryより
2018.4.19
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JCS 2018取材班
山下侑吾氏
山下侑吾氏

わが国のリアルワールドデータから,静脈血栓塞栓症(VTE)患者に対する抗凝固療法の投与期間に大きなばらつきが見られ,一部でガイドラインの推奨との齟齬が生じていた。最適な投与期間に関しては,再発,出血,死亡のリスクなどを総合的に勘案し判断すべき-3月23日,第82回日本循環器学会学術集会にて,山下侑吾氏(京都大学大学院医学研究科循環器内科学)が発表した。

●背景・目的

VTEは長期的な再発リスクを有しており1),再発予防のために抗凝固薬(AC)が投与されるが,ガイドラインにおけるACの推奨投与期間は再発リスクにより異なっている。すなわち,低リスク(危険因子が可逆的)例では3ヵ月間,中リスク(特発性VTE)例では少なくとも3ヵ月間,高リスク(活動性悪性腫瘍)例ではより長期の投与が推奨されている。しかし,その投与実態についての報告は少ない。

今回,COMMAND VTE Registry(Contemporary Management and Outcomes in Patients with Venous Thromboembolism Registry)2)の登録患者データより,投与実態の評価を行った。

●方法・対象

本研究は,京都大学を中心とした全国29施設における後ろ向きコホート研究である。2010年1月~2014年8月にVTEが疑われた患者19,634例をスクリーニングし,画像診断または剖検で確認された急性の症候性VTE患者3,027例を対象とした。リスクに応じて,可逆的危険因子群(低リスク)855例(28%),特発性VTE群(中リスク,VTE既往例を含む)1,477例(49%),悪性腫瘍群(高リスク)695例(23%)に分け,患者背景,治療内容,転帰(症候性VTEの再発,大出血[ISTH基準],全死亡),AC投与期間ならびにVTE再発との関連性を検討した。

●結果

1. 患者背景

可逆的危険因子群がもっとも若齢で(平均年齢は可逆的危険因子群65.7歳,特発性VTE群68.3歳,悪性腫瘍群66.5歳),女性が多く(それぞれ71%,57%,60%),慢性腎臓病が少なかった(15%,22%,17%,ここまですべてp<0.001)。

VTEの病型は,肺血栓塞栓症(PTE;深部静脈血栓症[DVT]合併例を含む)はそれぞれ54%,58%,57%,DVT単独は46%,42%,43%であった。PTE例では可逆的危険因子群でショック症例(14.5%,10.1%,6.4%,p<0.001),心停止/循環虚脱(7.1%,4.7%,1.8%,p=0.001)が多かった。DVT単独例における近位部DVTの割合(67%,71%,72%,p=0.33)に差はなかった。

2. 急性期および急性期以後の治療内容

急性期治療として,静注薬によるAC療法(ヘパリンもしくはフォンダパリヌクス)が約8割を占め(可逆的危険因子群88%,特発性VTE群82%,悪性腫瘍群83%),血栓溶解療法は1~2割に行われていた(それぞれ12.5%,18.3%,7.6%)(いずれもp<0.001)。下大静脈フィルターは2~3割に留置されていた(それぞれ24%,22%,27%)(p=0.003)。

急性期以後の治療としては,8~9割にACが投与され,そのほとんどがワルファリンであった(可逆的危険因子群86%,特発性92%,83%)。直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の投与はそれぞれ3.2%,2.1%,2.9%であった(ここまでp<0.001)。

3.転帰

1年後の症候性VTEの再発率は,悪性腫瘍群が11.8%ともっとも高く,ついで可逆的危険因子群4.6%,特発性VTE群3.1%であった(Log-rank p<0.001)。大出血(悪性腫瘍群15.3%,可逆的危険因子群6.0%,特発性VTE群4.0%,Log-rank p<0.001),全死亡(それぞれ49.6%,7.6%,6.0%,Log-rank p<0.001)も同様に,悪性腫瘍群でもっとも高かった。

4. ACの中止率と,中止後のVTE再発率

急性期以後もACを投与された患者を対象に,1年後のAC中止率(一時的な中止を除く14日を超える中止と定義)を検討した。VTE再発リスクが高いと考えられる悪性腫瘍群が43.5%でもっとも高く,ついで可逆的危険因子群37.3%,特発性VTE群21.4%であった(Log-rank p<0.001)。

また,AC中止1年後のVTE再発率は,悪性腫瘍群が8.8%ともっとも高く,ついで特発性VTE群8.4%,可逆的危険因子群4.2%であった(Log-rank p=0.001)。

5. AC継続・中止とVTE再発の関連

VTE診断1年後のAC継続(On群)または中止例(Off群)別に,診断4年後のVTE再発率を検討した。可逆的危険因子群ではOn群で1.6%,Off群で2.5%,悪性腫瘍群ではOn群で5.6%,Off群で8.6%に再発がみられたが,AC継続の有無による差はなかった(それぞれLog-rank p=0.30,p=0.44)。一方,特発性VTE群では,Off群(12.2%)のほうがOn群(3.7%)よりも再発率が有意に高かった(Log-rank p<0.001)。

●まとめ

<可逆的危険因子群>

ガイドラインで推奨されているACの投与期間は3ヵ月とされているものの,実臨床ではより長期に投与されていた。しかし,AC中止後のVTE再発率は低く,1年後のAC継続の有無とVTE再発との関連がなかったことから,実臨床ではやや不適切に長期投与されている実態がうかがわれた(不適切な「Long-term Use」)。

<特発性VTE群>

AC投与中止後のVTE再発率は可逆的危険因子群よりも高く,またOn群よりもOff群でVTE再発率が有意に高かったことから,一部の症例でやや不適切に短期投与となっている可能性が示唆された(不適切な「Short-term Use」)。

<悪性腫瘍群>

VTE再発率がもっとも高く,また大出血や全死亡の発症率のいずれも高かったことから,病態に応じた再発予防が重要と考えられた。

●結論

リアルワールドのVTE患者において,抗凝固療法の投与期間にはばらつきがあり,一部ではガイドラインの推奨との齟齬が認められた。最適な抗凝固療法の投与期間は,再発,出血,死亡を総合的に勘案したうえで判断すべきと考えられる。

文献

  • Kyrle PA et al. Risk assessment for recurrent venous thrombosis. Lancet 2010; 376: 2032-9.
  • Yamashita Y, COMMAND VTE Registry Investigators. Anticoagulation Therapy for Venous Thromboembolism in the Real World- From the COMMAND VTE Registry. Circ J 2018 Mar 23. doi: 10.1253/circj.CJ-17-1128.


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