抗血栓療法トライアルデータベース|ESC 2015レポート
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欧州心臓病学会(ESC 2015)2015年8月29~9月2日,英国・ロンドン
リアルワールドの心房細動患者に対する抗血栓療法の状況
-GARFIELD-AFより
2015.9.15
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Global Anticoagulant Registry in the Field-Atrial Fibrillation(GARFIELD-AF)は,日本を含む約50ヵ国,1,000を超える施設から非弁膜症性心房細動患者55,000例を前向きに登録し,抗凝固療法の管理と転帰を評価する世界規模の登録研究である。欧州心臓病学会(ESC 2015)では,後藤信哉氏(東海大学医学部内科学系教授),A. John Camm氏(St. George’s University of London,英国)より,あわせて3件の解析が発表された。

同研究の対象は,新規に心房細動と診断された,脳卒中リスク因子を一つ以上有する,18歳以上の患者である。登録は5つの連続コホートに分けて行い,各コホートとも2年以上の追跡が予定されている。2009年に第1コホートの登録を開始し,各コホートとも1~2年かけて約1万例ずつ登録する。2015年9月現在,第5コホートの登録が進んでいる。

なお,第1コホートのみ後ろ向き登録患者を約半数含むが,今回の解析ではいずれも,それらの患者は除外されている。

後藤信哉氏
後藤信哉氏

中等度~重度のCKD患者におけるイベント発現率
後藤信哉氏(東海大学医学部内科学系教授)

●背景

心房細動患者は非心房細動患者にくらべ,脳卒中リスクが5倍上昇することが報告されている1)。また,慢性腎臓病(CKD)を合併すると,血栓塞栓症リスク,出血リスクがともに上昇する2, 3)。そのため,抗血栓療法を行うにあたって,ベネフィットとリスクのバランスをどのようにとるかが重要となるが,さまざまなステージのCKD患者に対する明確な指針はない。

●目的・方法

本解析では,中等度~重度のCKD患者(NKF-KDOQIステージ≧3),および軽度または非CKD患者(同<3)に分けて,臨床転帰の比較を行った。評価項目は,脳卒中または全身性塞栓症,全死亡,心血管死,重大な出血事象の発現率である。ハザード比(HR)はCHA2DS2-VAScスコア構成要素,人種,抗血栓療法,喫煙,心房細動の病型により補正した。

●結果

1. 患者背景

2010年3月~2013年6月,30ヵ国の858施設より,17,162例を登録した。このうち17,159例について,CKDのステージおよび1年後の転帰に関するデータが得られた。

ステージ≧3の患者(1,760例)は同<3の患者(15,399例)にくらべ高齢で(平均年齢:それぞれ76.5歳,69.0歳),女性が多かった(49.5%,43.2%)。合併症有病率が高く(うっ血性心不全:それぞれ29.4%,19.6%,冠動脈疾患:27.7%,19.0%,急性冠症候群15.3%,8.7%など),平均CHA2DS2-VAScスコア(4.2,3.2),平均HAS-BLEDスコア(2.6,1.3)が高かった。

2. 抗血栓療法の有無別の転帰

ステージ≧3の患者は同<3の患者にくらべ,抗凝固薬(単独または抗血小板薬併用)の投与率が高かった(それぞれ66.5%,60.1%)にもかかわらず,評価項目の発現率がおおむね高かった(脳卒中または全身性塞栓症:それぞれ2.4%/年,1.3%/年,補正後HR 1.40,95%CI 0.97-2.02,重大な出血事象:1.9%/年,0.7%/年,補正後HR 1.99,95%CI 1.30-3.04,全死亡:10.2%/年,3.5%/年,補正後HR 1.89,95%CI 1.57-2.27,心血管死:4.6%/年,1.5%/年,補正後HR 1.75,95%CI 1.32-2.30)。

●結論

心房細動患者において,中等度~重度のCKD患者は軽度または非CKD患者にくらべ,全死亡,心血管死,重大な出血事象の発現率は約2倍に上昇し,脳卒中または全身性塞栓症の発現率は1.4倍の上昇傾向が認められた。 新規に心房細動の診断をうけた患者において,中等度~重度のCKDは改善することが難しいリスク因子である。GARFIELD-AF registryにてイベント発現率の検討をさらに続けることにより,抗凝固療法のベネフィットとリスクのバランスを取るための知見が得られるものと期待される。

Goto S, et al. Stroke, major bleeding and mortality in newly diagnosed atrial fibrillation with moderate-to-severe chronic kidney disease: results from GARFIELD-AF. Eur Heart J 2015; 36(abstract supplement): 987.

発表ポスターはこちらでご覧いただけます(ESCへのログインが必要です)。
http://congress365.escardio.org/SubSession/4832#.VffTWNLtlHw

A John Camm氏
A John Camm氏

近年の抗血栓療法の推移
A. John Camm氏(University of London,英国)

●背景・目的

心房細動患者の脳卒中発症抑制において,各種ガイドラインでは,脳卒中リスク因子を有する患者に対して,抗凝固療法が推奨されている1, 4~7)。しかしながら実臨床では,脳卒中リスクが高い患者に対しては過小に,低リスクの患者に対しては過大に治療される傾向がみられ,抗凝固療法が適切に行われていない可能性がある8~10)。 新規経口抗凝固薬(NOAC)は臨床試験にて,死因となる出血や,脳内出血を抑制し,ビタミンK拮抗薬の代替薬として推奨されている11~15)。本解析では,2010年3月~2014年6月に登録された,新規に心房細動の診断をうけた患者において,近年の抗血栓療法の推移を検討した。

●結果

1. コホート別の抗凝固薬投与率

32ヵ国の1,048施設より,28,624例(第1コホート5,500例,第2コホート11,662例,第3コホート11,462例)が登録された。

3つのコホートを通して抗血栓薬投与率をみてみると,抗凝固療薬は57.4%から68.0%に上昇した一方,ビタミンK拮抗薬(単独または抗血小板薬併用)は53.2%から40.8%へ,抗血小板薬単独は30.2%から20.1%へ,それぞれ低下していた。NOAC(単独または抗血小板薬併用)投与率は第1コホート4.1%,第2コホート13.8%,第3コホート26.0%と,経時的に上昇した。第3コホートでは,日本を含め全体の1/3の国で,抗凝固薬のうちNOACが占める割合が最大となっていた。

2. 患者背景別の抗凝固薬投与率

抗凝固薬投与の上昇率は,CHA2DS2-VAScスコア1点の患者では0点ならびに≧2点の患者にくらべ低かった。ただし,0点の患者(担当医が脳卒中リスクを有すると判断)の投与率には34.5%から46%と幅がみられた。65歳以上の患者は65歳未満の患者にくらべ抗凝固薬投与率が高く,投与率は3つのコホートを通して増加していた。

3. 診療科別の抗凝固薬投与率

循環器科に通院している患者では,NOAC投与率が第1コホートの5%から第3コホートの29.6%へ上昇し,抗血小板薬投与率は47.3%から33%へ低下した。循環器科および内科における抗凝固薬投与率の上昇は,NOACの増加によるものであった。神経科および老年科に通院している第3コホートの患者では,第1コホートにくらべ投与率は低下していた。

●結論

NOACの登場以降,新規に心房細動と診断された患者において,ガイドラインが推奨する治療をうけている症例が増加した。これは主としてNOACの投与が増え,ビタミンK拮抗薬(単独または抗血小板薬併用)もしくは抗血小板薬単独の投与が減少したことによるものであった。一方,ガイドラインでの抗凝固療法が推奨されていないCHA2DS2-VAScスコア0点の患者での抗凝固薬投与率,特にNOACの割合が増加しており,過大治療の状況がうかがわれた。

Camm AJ, et al. Evolving antithrombotic treatment patterns in patients with newly diagnosed atrial fibrillation in GARFIELD-AF. Eur Heart J 2015; 36(abstract supplement): 745-6.

発表ポスターはこちらでご覧いただけます(ESCへのログインが必要です)。
http://congress365.escardio.org/SubSession/4575#.VffT0dLtlHw

A John Camm氏
A John Camm氏

欧州におけるNOAC投与のパターン
A. John Camm氏(University of London,英国)

●背景・目的・方法

心房細動管理に関する最新のガイドライン8~10)では,ビタミンK拮抗薬の代替としてNOACを推奨している。心房細動患者に対するNOAC投与の割合は,北米では27.5~56.7%,欧州では2.4~58.1%,アジアでは1.3~47.5%など,国により異なる。 本解析では,2010~2014年に欧州で登録された17,475例について,NOAC投与率を6,12,24ヵ月後の時点で国ごとに評価し,NOAC投与のパターンを検討した。

●結果

欧州において登録時にNOACを投与されていたのは2,979例(17.0%),ビタミンK拮抗薬を投与されていたのは8,905例(51.0%)であった。対象患者全体の平均年齢は71.4歳,女性は45.5%を占めた。NOACのなかでは第Xa因子阻害薬が多かった(第Xa因子阻害薬単独47.2%,第Xa因子阻害薬+抗血小板薬併用13.8%)。

各国でNOAC投与患者をはじめて登録した日からみると,NOAC投与率は経時的に増加したが,投与率には各国で差がみられ、6ヵ月後の投与率では1.5%未満(ノルウェー,英国,フランス)から50.7%(ベルギー),12ヵ月後では0.9%(フィンランド)から53.3%(ベルギー),24ヵ月後では1.1%(イタリア)から57.6%(ベルギー)と,大きな幅がみられた。NOAC投与患者の登録後6~24ヵ月後の間でもっともNOACの投与割合が増加したのは,ノルウェーであった。

●結論

欧州において,NOACの投与率は国により大きな差異を認めた。これは薬剤の供給や健康保険償還の状況が異なるためと考えられた。

Camm AJ, et al. Patterns of uptake of non-vitamin K antagonist oral anticoagulants in Europe: an analysis from the GARFIELD-AF registry. Eur Heart J 2015; 36(abstract supplement): 242.

発表ポスターはこちらでご覧いただけます(ESCへのログインが必要です)。
http://congress365.escardio.org/SubSession/4584#.VffUN9LtlHw

文献

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