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第78回日本循環器学会学術集会(JCS 2014)2014年3月21〜23日,東京
低リスクの心房細動患者に対する抗凝固療法の是非
-低リスクでも抗凝固療法の適応となる
2014.5.7
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奥村 謙氏
奥村 謙氏

 3月22日,第78回日本循環器学会学術集会において,低リスクの心房細動患者に対する抗凝固療法の是非を討論するコントロバーシーセッション「How can We Prevent Ischemic Stroke in Patients with Atrial Fibrillation at Relatively Low Risk?」が開催され,4名の演者によるプロコン形式の講演が行われた。

 奥村謙氏(弘前大学大学院医学研究科循環呼吸腎臓内科学)は,低リスクの心房細動患者に対する抗凝固療法を是とする立場から,以下のように論じた。

●非弁膜症性心房細動患者に対する抗凝固療法

 近年,非弁膜症性心房細動患者に対する脳卒中予防のための抗凝固療法として,ワルファリンに加え新規経口抗凝固薬も用いられるようになっている。ただし,抗凝固療法には出血リスクをともなうことから,薬剤を問わず,低リスク患者に対する実施には議論がある。

 抗凝固療法の適応決定に際しては,塞栓症リスクスコアであるCHADS2スコアもしくはCHA2DS2-VAScスコア,出血リスクスコアであるHAS-BLEDスコアを用い,塞栓症リスクと出血リスクの両方を考慮することが必要となる。CHA2DS2-VAScスコアはCHADS2スコアより項目を増やして,低リスク患者をさらに細分化し予測精度を高めたスコアで,0点は真の低リスクとされる。

 現在,多くの心房細動治療ガイドラインでは,塞栓症リスクスコア2点以上の高リスク例に対しては一様に抗凝固療法を推奨し,ワルファリンより新規経口抗凝固薬を優先することを明確にしている。一方,0~1点の低・中等度リスク患者への対応については,ガイドラインなどでも見解が異なる。

 ここでは,低リスクの患者でも新規経口抗凝固薬の適応となると考える根拠として,心原性脳塞栓症の重症度は発症前のリスクスコアに関連しないこと,新規経口抗凝固薬のネットクリニカルベネフィットが塞栓症リスクの高低にかかわらず認められていることを示す。

●低リスクでも心原性脳塞栓症を発症すれば重症化

 心原性脳塞栓症は,ラクナ梗塞,アテローム血栓性脳梗塞にくらべ予後が不良である。弘前脳卒中・リハビリテーションセンターの検討によると,退院した心原性脳塞栓症患者のうち,転帰不良(modified Rankin Scale:mRS 3~6)の割合は全体の54%で,ラクナ梗塞,アテローム血栓性脳梗塞にくらべ多かった1)

 また,2011~2013年に同センターにおいて心房細動から心原性脳塞栓症を発症した患者456例の検討によると,退院時の転帰不良(mRS 3~6)の割合は,発症前CHADS2スコアが0~1点の患者(61例)では38%,2点以上の患者(395例)では49%と,同程度であった(p=0.0657)。75歳未満の136例に限定した比較でも,同様に有意差はみられなかった(p=0.4121)。このように,たとえ発症前の塞栓症リスクが低くとも,いったん心原性脳塞栓症が発症してしまえば高リスク患者と同様に重症となりやすいことから,低リスク患者においても予防のための抗凝固療法が必要であると考えられる。

●新規経口抗凝固薬のネットクリニカルベネフィット

 それでは,抗凝固療法を行うならどの薬剤がよいのだろうか。

 J-RHYTHM Registryにおいて,CHADS2スコア別にワルファリンの血栓塞栓症抑制効果を非治療とくらべた検討によると,0点では抑制傾向を示すにとどまり(ハザード比[HR]0.24,p=0.06),有意な抑制がみられたのは1点以上の患者集団であった(1点:HR 0.39,p=0.01,2点以上:HR 0.43,p=0.002)2)。CHA2DS2-VAScスコアでみても,0点では有意な抑制効果が認められず,1点では境界域であり,著明な効果を示したのは2点以上であった。

 抗凝固療法においては,脳梗塞予防効果というベネフィットが,頭蓋内出血というリスクを上回る必要がある。いわゆるネットクリニカルベネフィットに関して,デンマークのコホート研究3)では,ワルファリンはCHA2DS2-VAScスコア0~1点の低~中等度リスク患者では認められず,2点以上の高リスク患者でのみ認められたのに対し,新規経口抗凝固薬のダビガトラン,リバーロキサバン,アピキサバンでは,いずれもCHA2DS2-VAScスコア0点,1点,2~9点のいずれにおいても認められている。

●まとめ

 CHADS2スコアが低い心房細動患者であっても,いったん心原性脳塞栓症を発症すれば予後不良となりやすいこと,また新規経口抗凝固薬のネットクリニカルベネフィットがCHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアの高低にかかわらず認められたことより,低~中等度リスク患者については以下のように適応を判断すべきと考えられる。

・中等度リスク患者(CHADS2スコア/ CHA2DS2-VAScスコア1点):抗凝固療法の適応となる。

・低リスク患者(CHADS2スコア/ CHA2DS2-VAScスコア0点):特にCHA2DS2-VAScスコア0点は真の低リスクであるものの,それでも心原性脳塞栓症を発症する患者はゼロではないこと,また欧米の研究からは新規経口抗凝固薬のネットクリニカルベネフィットが認められていることから,費用対効果,患者の意向,スコアには含まれないリスク因子などを考慮し,適応を判断すべきである。

文献

  • 奥村謙他.心房細動を原因とする脳卒中予防の新たな時代が始まる 心原性脳梗塞の疫学と重症度.心電図 31; 2011: 292-6.
  • Okumura K, et al. Validation of CHA2DS2-VASc and HAS-BLED Scores in Japanese Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation. An Analysis of the J-RHYTHM Registry. Circ J. [Advance Publication] Released: April 22, 2014. https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/advpub/0/advpub_CJ-14-0144/_pdf
  • Banerjee A, et al. Net clinical benefit of new oral anticoagulants (dabigatran, rivaroxaban, apixaban) versus no treatment in a 'real world' atrial fibrillation population: a modelling analysis based on a nationwide cohort study. Thromb Haemost 2012; 107: 584-9.

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