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第78回日本循環器学会学術集会(JCS 2014)2014年3月21〜23日,東京
日本人におけるエビデンスから学ぶ-EXPAND研究への期待
2014.4.14
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新 博次氏
新 博次氏

 3月22日,第78回日本循環器学会学術集会において,ランチョンセミナー「心房細動に対する抗凝固療法の新時代:日本人における新たなエビデンス」(座長:下川宏明氏[東北大学])が開催された。これまでに日本人を対象とした研究から得られているエビデンスについて,新博次氏(日本医科大学多摩永山病院)が解説した。

●心房細動患者に対する抗凝固療法のエビデンス

 心房細動患者の抗凝固療法に関する調査研究はいくつかあるが,日本で実施されているものとして,まずJ-RHYTHM Registry,ならびに伏見心房細動患者登録研究(Fushimi AF Registry)があげられる。前者は基幹病院や大学病院など循環器専門外来の受診例,後者は実地医家の受診例を中心とした登録研究という違いがあり,これまでに意義深いエビデンスが得られている。ここでは,これまでに得られているエビデンスの概要をまとめ,日常診療にどのように生かすことができるかを考察する。

●J-RHYTHM Registry

 2009年に開始されたJ-RHYTHM Registryは,2011年8月をもって観察期間終了となったが,現在もいくつかのサブ解析が進行中である。参加施設は全国158の基幹病院や大学病院であり,日本の循環器専門外来受診患者における「ワルファリン時代」の治療実態を明らかにした研究といえる。これまでに明らかになっているおもなデータは以下のとおりである。

1. 登録時の患者背景

 男女比は男性が68.9%と半数以上を占めたが,平均年齢は女性(72.2歳)のほうが男性(68.6歳)よりも高く,これは加齢とともに女性患者が増加することを反映していると考えられる。心房細動の病型をみると発作性が37.1%,持続性が14.4%,永続性が48.5%であった。合併症は高血圧が59.1%と過半数を占め,また冠動脈疾患は10.1%で,欧米の約1/3であった。

2. 登録時の治療状況

 CHADS2スコアをみると,男性では1点の患者が約3割ともっとも多く,女性では1点と2点がそれぞれ約3割であった。服薬状況はワルファリン87.3%,抗血小板薬25.9%,アンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシンII阻害薬52.9%,スタチン24.1%であった。本研究では,ワルファリンの使用率が非常に高かったが,適切にコントロールされているかどうかとは切り離して考える必要がある。

 ワルファリンの平均投与量は2.9mg/日で0.5㎎/日未満から8.0㎎/日以上まで広く分布していた。日本では,年齢別のプロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)の目標域(70歳未満:2.0~3.0,70歳以上:1.6~2.6)が推奨されているが,登録時PT-INRが1.6~1.99で管理されていた割合が36.4%と最も多く,1.60未満も25.4%を占めた。またガイドラインの目標治療域別にみると,1.60~2.59が66.0%,2.00~2.99が35.4%で,これは年齢(70歳以上/未満)を問わず同様であった。

3. 予後

 2年間の観察の結果,抗凝固療法(ワルファリン投与)を受けていなかった70歳未満の患者の血栓塞栓イベント発症率は2.0%,70歳以上の患者では4.1%と,70歳以上では約2倍高かったが,いずれも海外での報告にくらべて低かった1)。 ワルファリン投与例でPT-INRレベル別にみると,特に70歳以上の高齢者では, PT-INR1.6未満で血栓塞栓イベントが増加し,一方,出血性合併症は2.6以上で顕著に増加していた。70歳未満でも同様であったが,イベント数自体が少なかった。 

 以上のように,循環器専門医が抗凝固薬を投与する際には,おそらく日本人の虚血イベントが少ないことや高齢者の出血合併症リスクなどを考慮したうえで,全体的にPT-INR低値を許容している,すなわち「やや低め」の管理が行われているという実態があらためて浮き彫りになった。

●登録研究が示すリアルワールドのデータ

 臨床試験は一般に,選択基準に合致する一部の限られた症例を対象として,短い投与期間で,かつ専門医の管理下での薬剤の有効性を評価するため,日常診療にそのまま応用できるとは限らない。また,J-RHYTHM Registryは循環器専門医の診療を受けている心房細動患者を中心とした登録研究であったため,非専門医も含めた実地医家が日常診療でみている多様な年齢・合併症・治療状況の患者をすべて含む,いわゆる「リアルワールド」ではどうなのかという疑問に答えるエビデンスが求められてきた。

 そこで2011年3月より実施されたのがFushimi AF Registryである。実地医家が診療する心房細動患者を中心に登録し,新規経口抗凝固薬が使用可能になるまでのワルファリンからの「移行期」の現状をみることのできる研究といえる。たとえばワルファリンの投与率について,J-RHYTHM RegistryではCHADS2スコアにかかわらず80%超と非常に高かった一方で,Fushimi AF Registryではスコアによって約30~60%と低く2),これが日本の実地医療の現状と考えられた。なお,国際前向きコホート研究GARFIELD Registryでも同様に,ワルファリン投与率は約30~60%と高くなく3),under-useである現状は世界的にも大きな課題となっている。

 ただ,このようなデータから単純に「投与率が何%以上だからよい/悪い」とするのではなく,「個々の患者でなぜ使われなかったか」を考察する必要がある。

●市販後調査が示すリアルワールドのデータ

 薬剤の特定使用成績調査もリアルワールドの実態を反映するデータといえる。リバーロキサバンの特定使用成績調査(実施予定期間:2012年4月~2019年3月31日,目標登録症例数10,000例)において,2013年6月末時点までに6ヵ月間の観察期間を完了した約1,000例をみると,男女比は男性が58%と半数強を占め,平均年齢は73.3歳,平均体重は60.1kgであった。

 CHADS2スコアは0~1点が35.4%,2点が30.9%,3点以上が33.7%で,ROCKET AF4)では0~1点の患者は対象から除外されたが,リアルワールドでは0~1点の患者が投与例の3割以上を占めていることがわかる。CHA2DS2-VAScスコアでは2点以上が87.9%と大部分を占めていた。

 ROCKET AFならびにJ-ROCKET AF5)の患者プロフィールと比較すると,75歳以上の高齢者や低体重者,腎機能低下例が多くなっていたことから,こうしたリアルワールドのデータ集積を通じて,臨床試験では十分に検討されていない患者層での現状を把握していくことが重要だと考える。

●EXPAND研究への期待

 EXPAND研究は,リバーロキサバンを投与されている非弁膜症性心房細動患者を登録し,追跡を行う医師主導多施設共同研究である。2014年3月17日時点での6,637例の患者背景をみると,平均年齢71.5歳,男性約68%,投与量の内訳は15mg投与が56%,10mg投与が44.0%であった。CHADS2スコアの分布や合併症の保有状況などはFushimi AF Registryと近く,わが国の診療の実態を反映しているデータであると考えられる。国内最大規模の研究として,特に以下のエビデンスが期待されている。

・リアルワールドにおけるリバーロキサバンの脳梗塞予防効果(とくにCHADS2スコアが低い集団ではどうかという点)
・新規経口抗凝固薬によるCHADS2スコア別の脳梗塞予防効果
・日本人におけるCHADS2スコアの各項目の重み付け

●まとめ

 心房細動患者における新規経口抗凝固薬のエビデンスが示されているものの,日本の日常診療への応用にあたっては,各研究の登録基準や研究デザインにも注意してデータを解釈する必要がある。たとえば,臨床試験にくらべてリアルワールドでは高齢者や低体重者,腎機能低下者の割合が高い。その結果として,出血性合併症リスクへの懸念から全体的に低用量が選択される傾向があることが登録研究や市販後調査などから明らかになってきた。今後の成果が期待されるEXPAND研究も含めたこのようなデータを参考に,今後は服薬アドヒアランスや患者の好みも考慮して抗凝固療法を行っていく必要がある。

文献

  • Inoue H, et al. Target international normalized ratio values for preventing thromboembolic and hemorrhagic events in Japanese patients with non-valvular atrial fibrillation: results of the J-RHYTHM Registry. Circ J 2013; 77: 2264-70.
  • Akao M, et al. Current status of clinical background of patients with atrial fibrillation in a community-based survey: the Fushimi AF Registry. J Cardiol 2013; 61: 260-6.
  • Kakkar AK, et al. Risk profiles and antithrombotic treatment of patients newly diagnosed with atrial fibrillation at risk of stroke: perspectives from the international, observational, prospective GARFIELD registry. PLoS One 2013; 8: e63479.
  • Patel MR, et al. Rivaroxaban versus warfarin in nonvalvular atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 883-91.
  • Hori M, et al. Rivaroxaban vs. warfarin in Japanese patients with atrial fibrillation. Circ J 2012; 76: 2104-111.

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