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欧州心臓病学会(ESC 2014)2014年8月30〜9月3日,スペイン・バルセロナ
ACS合併/PCI適応を有する心房細動に対する抗血栓療法-合同文書からの推奨
2014.10.3
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Paulus Kirchhof氏
Paulus Kirchhof氏

欧州心臓病学会(ESC Congress 2014)にて8月31日に行われたシンポジウム「Warfarin or new anticoagulants in atrial fibrillation patients undergoing PCI」より,Paulus Kirchhof氏 (University of Birmingham,英国)の発表内容を紹介する。

●抗血栓薬併用療法の適切な管理を目指して

現在,多くの心房細動(AF)患者で抗血栓薬の併用療法が行われているが,必ずしも適切な治療が行われているとはいえない。欧州で2012~2014年に行われた大規模調査1)では,AF患者7,243例のうち,660例で2剤併用療法(経口抗凝固薬+アスピリンまたはクロピドグレル)が行われていたが,当時のガイドラインの推奨内容に合致していたのは31例とごく少数であった。 このような状況のなか,2014年8月,ESCおよび関連学会から合同文書『急性冠症候群合併および/または経皮的冠動脈インターベンションまたは心臓弁インターベンション施行予定の心房細動患者に対する抗血栓療法の管理』2)が発表された。

●多くの患者に共通する推奨内容

本領域のエビデンスはまだ乏しく,「診療ガイドライン」の策定には至っていないが,本合同文書にはワーキンググループが考える「現時点での最適な治療」が掲載されている。そのなかで多くの患者に共通して推奨され,骨格となる内容が「総論」の項に記載されている。まずその概要から紹介する。

1. 経口抗凝固薬単剤療法の長期継続

抗血小板薬の併用は出血リスクを倍増させると考えられているため,ステント留置や急性冠症候群(ACS)から1年経過し,安定したAF患者では,経口抗凝固薬の単剤療法(新規経口抗凝固薬[非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬:NOAC])あるいはビタミンK拮抗薬)を行うことが推奨されている。

2. リスク評価の活用

患者のリスク評価指標として,出血リスクの評価にはHAS-BLEDスコア,脳卒中・塞栓症リスクの評価にはCHA2DS2-VAScスコア,ACSのリスク評価にはGRACEスコアが有用である。GRACEスコアには,脳卒中のリスク評価に含まれる因子のほかにも,心拍数,収縮期高血圧,腎機能,Killip分類,心電図変化,トロポニン値などが含まれており,異なる側面から血栓リスクの情報を得ることができる。

3. 併用療法時における経口抗凝固薬の管理

ビタミンK拮抗薬と抗血小板薬を併用している患者では,プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)が2.0~2.5(治療域内時間[TTR]>70%)になるように調節する。抗凝固薬の併用が必要であるものの出血リスクが高いと考えられる患者には,低用量NOACが有効と考えられる。

4. 橈骨動脈を経由するアプローチ

経皮的冠動脈インターベンション(PCI)および冠動脈造影に際しては,橈骨動脈からのアプローチにより周術期の出血リスクを低減できる。同手法が始まってまだ数年ではあるが,多くの患者で実施可能である。

5. 新世代DESの選択

ステント血栓症発生率および血栓イベント再発率はベアメタルステント(BMS)よりも新世代の薬剤溶出性ステント(DES)のほうが低いと考えられる。そのため,とくに出血リスクの低い患者ではBMSではなく,新世代DESを選択したほうがよいかもしれない。この点については2010年版から変更されている。

6. 新規P2Y12阻害薬と経口抗凝固薬の併用

新規P2Y12阻害薬と経口抗凝固薬の併用は出血リスクが高いとのデータがあり,現時点では新規P2Y12阻害薬を用いた3剤併用療法は推奨されない。

●個々のリスクを考慮した抗血栓治療の重要性

抗血栓療法を行う際,われわれは「血栓リスク」と「(ときに生命を脅かすような)出血リスク」を評価し,両者の適切なバランスが保たれるように「抗血栓療法を強めるか,弱めるか」を決定しなければならない。どちらかというと,出血リスクを回避する方向に傾き,血栓リスクが高くなりがちだが,AF患者では脳卒中リスクよりも大出血のリスクが低いことを念頭におく必要がある。さらに,脳卒中リスクだけでなく,先に述べたACSリスク(GRACEスコア)も併せて考えることでより強力な抗血栓療法の重要性が増す。

また,心虚血イベントの再発リスクは時間経過とともに低下するが,出血リスクは周術期がピークになり,その後はほぼ一定であることも治療決定における重要なポイントになる。このような種々の条件から,各患者における抗血栓療法の至適投与期間が決まる。実際,それを正確に予測するのは困難だが,両リスクを考慮した管理を行うようにすることが重要である。

●安定冠動脈疾患・ACSに対する抗血栓療法の実践

そこで今回の指針では,はじめに脳卒中リスク(CHA2DS2-VAScスコア)と出血リスク(HAS-BREDスコア)を評価し,つぎに「PCI施行予定の安定冠動脈疾患」と「ACS」を区別したうえで,抗血栓療法の組み合わせ・期間を決定するよう推奨されている。

具体的には,ACS患者にはより積極的な抗血栓療法が推奨され,安定冠動脈疾患で出血リスクが高く,脳卒中リスクが低い患者には,出血リスク回避を重視した抗血栓療法が推奨されている。いずれのケースにも,なんらかの併用療法が推奨され,ほとんど場合は経口抗凝固薬がその1剤に含まれている。その際,NOACあるいはビタミンK拮抗薬のどちらでもよいが,切替えはリスクを伴うため,患者が入院したときの抗凝固薬を継続して用いるのが好ましい。

12ヵ月以降の抗血栓療法については誤った選択がなされることが多いが,基本的には経口抗凝固薬の単剤療法に切り替えるべきである。これにより出血リスクは半減する。また,WOEST 3)では3剤併用療法(経口抗凝固薬+アスピリン+クロピドグレル)よりも2剤併用療法(経口抗凝固薬+クロピドグレル)のほうが出血イベントが少なかったことから,特定の患者においては3剤併用療法の代わりに経口抗凝固薬+クロピドグレルを考慮してもよい。

●まとめ

合同文書には,「ACS合併あるいはPCI施行予定のAF患者」に対する抗血栓療法の選択について,フローチャートが示されている。ほかにも,経口抗凝固薬を服用中でPCIを施行する患者のなかで,とくに注意を要するケースに関して言及されている。たとえば,人工弁置換術後のAF患者にPCIを施行する場合,PCI中のビタミンK拮抗薬投与は治療域内で最低のPT-INRを維持すること,人工弁置換患者や弁膜性AF患者には新規経口抗凝固薬を投与すべきではないこと,深部静脈血栓症後3~6ヵ月は再発リスクが高いため,経口抗凝固薬を継続すべきであることなどが記されている。

エビデンス不足という限界があるものの,現時点の知識が集約されており,非常に有用な文書となっている。臨床の現場で有効に活用されることを期待したい。

文献

  • PREFER in AF Registry Investigators. Frequent and possibly inappropriate use of combination therapy with an oral anticoagulant and antiplatelet agents in patients with atrial fibrillation in Europe. Heart 2014 Aug 8.
  • Lip GY, et al. Management of antithrombotic therapy in atrial fibrillation patients presenting with acute coronary syndrome and/or undergoing percutaneous coronary or valve interventions: a joint consensus document of the European Society of Cardiology Working Group on Thrombosis, European Heart Rhythm Association (EHRA), European Association of Percutaneous Cardiovascular Interventions (EAPCI) and European Association of Acute Cardiac Care (ACCA) endorsed by the Heart Rhythm Society (HRS) and Asia-Pacific Heart Rhythm Society (APHRS). Eur Heart J 2014 Aug 25.
  • WOEST study investigators. Use of clopidogrel with or without aspirin in patients taking oral anticoagulant therapy and undergoing percutaneous coronary intervention: an open-label, randomised, controlled trial. Lancet 2013; 381: 1107-15.


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