抗血栓トライアルデータベース
home
主要学会情報
テキストサイズ 
HOME > 主要学会レポート > 欧州心臓病学会学術集会(ESC 2013)
欧州心臓病学会学術集会(ESC 2013) 2013年8月31日~9月4日,オランダ・アムステルダム
Heidbuchel氏に聞く-「臨床医は『新規経口抗凝固薬のプラクティカルガイド』を活用し,患者の病態に応じた薬剤の選択を」
2013.10.1
Hein Heidbuchel氏
Hein Heidbuchel氏

●Heidbuchel先生は,欧州不整脈学会(EHRA)の「非弁膜症性心房細動患者における新規経口抗凝固薬のプラクティカルガイド1)」の筆頭著者でいらっしゃいます。まずはその作成背景や目的と,重要なポイントについて説明していただけますか。

心房細動患者における脳卒中予防については,現在,3剤の新規経口抗凝固薬が承認されており,近い将来,4剤目も承認される見込みです。したがって,医師はこれら新しい薬剤の特徴や投与方法を学ばなければなりません。そのために有用な情報をまとめたのがこのプラクティカルガイド1)です。

現在,医師が直面している問題の1つは,薬剤ごとに出される添付文書(summary of product characteristics;SmPC)です。各新規経口抗凝固薬のあいだで類似している項目が多い一方,重要な相違点もあるため,それらの違いを十分に把握する必要があります。もう1つは,新規経口抗凝固薬には未知の点が多くあることです。今後数年のうちに明らかになってくることも多いと考えられ,新しい情報や知見をそのつど取り入れるための基盤が必要でした。

そこでわれわれは,プラクティカルガイド1)を作成するとともに,その要約2),患者用診察情報カード,フィードバックフォームなどを作成し,これらすべてをESCのウェブサイト(www.NOACforAF.eu)からPDFでダウンロードできるようにしました。ユーザーとなる医療関係者からの質問や情報提供も可能で,今後,6~12ヵ月ごとの定期更新を目標にしています。

新しい試みとして,プラクティカルガイドの作成委員会は,製薬企業に依頼し,各薬剤に関する内容の正確性を確認しています。ただしこれは,プラクティカルガイドの内容がSmPCと完全に一致するという意味ではありません。実践的な回答が必要と思われる問題については,必ずしも既存のデータにしたがわず,作成委員会がエキスパートによる知見や見解をもって推奨や提案を行っています。この点こそが,製薬企業ではなく専門家がプラクティカルガイドを作成することの強みです。

●つまり,エビデンスが不足している場合は「知の結集」で解決したということですか?

その通りです。臨床現場では,新規経口抗凝固薬に精通していない医師も,患者を前にしてなんらかの判断を下さなければなりません。データにもとづいていないアドバイスであることに対しては批判もあるでしょうが,患者の安全のためには,それも覚悟のうえで専門家がアドバイスを提供することが必要だと考えました。もちろん,新たな知見が明らかになれば,そのつど情報を更新していく予定です。

●新規経口抗凝固薬を処方する際には,それぞれの患者に対して,適切な薬剤と,適切な投与量を選択しなければなりません。どのようなところに着目すればよいでしょうか?

まず重要なのは,有効性と安全性です。したがって,臨床試験の結果を注意深く読む必要があります。これまでの臨床試験では,新規経口抗凝固薬はワルファリンに対し非劣性または優越性を示し,より安全であることが示されています3~5)。新規経口抗凝固薬同士を直接比較した結果はありませんが,有効性と安全性はほぼ横並びと考えてよいと思います。選択にあたっては,患者背景や,服薬アドヒアランスなど,実地臨床での使いやすさを考えて選ぶとよいでしょう。

そのほかプラクティカルガイドでは,医師が薬剤を選択する際に役立つよう,すべての新規経口抗凝固薬について,おもな薬物間相互作用と,年齢や腎機能などの因子が血漿中の薬物濃度におよぼす影響について,色分けして1つの表にまとめました(文献1表5)。これは本ガイドの鍵となる特徴の1つです。

●新規経口抗凝固薬を選択するうえで,特に考慮すべき患者像はありますか?

ダビガトラン(直接トロンビン阻害薬)は腎排泄薬であるため,腎機能障害のある患者には適していません。 また,ダビガトランはワルファリンとくらべ,心筋梗塞リスクを上昇させる可能性を指摘する報告もあります。この点についての議論は尽きませんが,少なくとも慎重な対応が求められる結果ととらえ,冠動脈疾患合併患者では,ダビガトランではなく第Xa因子阻害薬を選ぶほうが理にかなっています。実際にも,そうしている医師が多いのではないでしょうか。

ただし,現時点では,特定の病態に対してどの新規経口抗凝固薬が適しているかは十分なエビデンスがなく,一律に決めることは不可能です。薬剤の選択は,患者の個々の状況を考慮しながら,医師の裁量により行わなければなりません。そのために,ぜひプラクティカルガイドを活用していただきたいと思います。

●電気的除細動やカテーテルアブレーション(以下,アブレーションと略す)などを施行する場合は,どのようなことを考慮したらよいですか?

プラクティカルガイドでは,患者特性からどの新規経口抗凝固薬を選択すべきか,また,服用中の患者にどう対応すべきかを,現在あるエビデンスにもとづいて説明しています。

心房細動患者でよく行われる電気的除細動については,新規経口抗凝固薬投与下でも安全に施行可能と考えられます。周術期の新規経口抗凝固薬投与については,現在いくつかの試験が進行中です。今後,新たな知見が得られると思います。

なお,ビタミンK拮抗薬投与患者では,プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)により電気的除細動施行前のコントロール状況を評価できますが,新規経口抗凝固薬ではそのような評価はできません。患者の服薬状況の自己申告に頼らざるを得ないのです。プラクティカルガイドでは,患者の自己申告が疑わしいと感じた場合には,経食道心エコーを用いて心内血栓を確認することを提案しています。

●アブレーションに関しても同様ですか?

電気的除細動の場合とは少し異なります。アブレーション施行時のビタミンK拮抗薬については,この2年ほどで,低分子量ヘパリンによるブリッジング療法よりも,ビタミンK拮抗薬を継続したほうが良好な結果が得られるという報告が多数出されています。一方,新規経口抗凝固薬のブリッジングに関するデータはまだわずかです。

プラクティカルガイドでは,新規経口抗凝固薬ごとに,待機的な外科的手技施行前に中断すべき期間を提示しています(文献1表9)。新規経口抗凝固薬にはブリッジングが容易,もしくは必要ないという大きな利点があります。アブレーション施行中はヘパリンを使用し,新規経口抗凝固薬を早期再開するというアプローチによって,ビタミンK拮抗薬を継続しての施行と同等の成績が得られていることから,よい選択肢になり得ます。今後,データが蓄積されていくことで,新規経口抗凝固薬投与下の患者に対し,アブレーションを安全に行える投与方法をはっきりと示せるようになると確信しています。

●心房細動患者における脳卒中予防のための新規経口抗凝固薬の選択方法は,深部静脈血栓症とは異なりますか?

深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症では抗凝固療法は比較的短期間ですみますが,脳卒中予防では長期にわたります。加えて,高齢患者では時間の経過とともに腎機能の低下が懸念されます。このため,高齢者では腎機能による影響が比較的少ない新規経口抗凝固薬を選択する必要があると考えられます。ただ,腎機能低下はあらゆる薬剤に影響をおよぼします。心房細動患者ではしばしば,併用薬の多い複雑な治療が行われていることもあり,どの新規経口抗凝固薬が優れているか,一概にはいえません。

●GARFIELD registryの第2コホートでは,抗凝固療法実施率自体は第1コホートにくらべてそれほど増加していませんでしたが,新規経口抗凝固薬が占める割合は増加していました。ただ,低リスク患者に対してはやや過剰,一方,高リスク患者では服用率が低いと報告されました6)。抗凝固療法は,必要な患者に対して十分に行われているとはいえない状況です。

最新のエビデンスを把握している専門医は,新規経口抗凝固薬には絶対的な利点があること,さらに多くの患者が服用すべきであることをよく理解しています。しかし,それを非専門医まで到達させるには時間がかかります。すべての医師が自信をもって新規経口抗凝固薬を使えるようになるまでには,まだ2~3年かかるかもしれません。その間にも,実地臨床における新規経口抗凝固薬の安全性について,さまざまな新しいデータが明らかになってくることで,新規経口抗凝固薬が広く普及し,十分に投与されていなかった患者にも十分な治療が行われることを期待しています。

●新規経口抗凝固薬を使い始めたものの,さまざまな情報に戸惑っている医師に対するアドバイスはありますか?

プラクティカルガイドでは,臨床でよくある具体的な場面ごとに必要な情報を簡潔に示しています。ぜひ日常的に活用していただきたいと思います。たとえば,新規経口抗凝固薬を服用中の患者から,歯の治療をしたいと言われたらどうするか。プラクティカルガイドの表を見れば,答えはすぐにわかります。

新規抗凝固薬の投与を開始する対象として私が推奨したいのは,それほど複雑な病態ではない患者―たとえば,冠動脈疾患がなく,腎機能は悪化しておらず,高コレステロール血症も血糖コントロールも良好な70歳の男性で,庭仕事をし,バイクにも乗る非常に活動的な心房細動患者―などです。このような患者は外食も多いので,ビタミンK拮抗薬で必要となる食事制限をしたがらず,毎月のPT-INR検査も嫌うでしょうから,簡単に使用できて忍容性に優れる新規経口抗凝固薬をすぐに気に入るはずです。臨床医には,まずはこのような患者に投与することで自信と経験を積み重ねていき,だんだんと合併症のある患者や複雑な病態の患者まで対象を広げていくことを勧めます。

(インタビュー:2013年9月1日)

文献

  • Heidbuchel H, et al. European Heart Rhythm Association Practical Guide on the use of new oral anticoagulants in patients with non-valvular atrial fibrillation. Europace 2013; 15: 625-51.
  • Heidbuchel H, et al. EHRA Practical Guide on the use of new oral anticoagulants in patients with non-valvular atrial fibrillation: executive summary. Eur Heart J 2013; 34: 2094-106.
  • Connolly SJ, et al. Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2009; 361: 1139-51.
  • Patel MR, et al. Rivaroxaban versus warfarin in nonvalvular atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 883-91.
  • Granger CB, et al. Apixaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2011; 365: 981-92.
  • Haas S. 2013年欧州心臓病学会で発表[今日の臨床における抗凝固療法の現状]。

Dr. Hein Heidbuchel
University of Leuven,ベルギー

JCS 2018

AHA 2017

ESC 2017

JCS 2017

STROKE 2017

AHA 2016

JCC 2016

ESC 2016


▲TOP